第50話  ボーナスタイムの終了


オレはこの何もかもが揃った空間で、次なる一手を考えていた。

そうしていると、背中にツンツンという感覚が走る。

そちらを見るとシルヴィアが、手に持った虫を見せてくれた。

お、昆虫さんだねぇ。

そう言うとニコォっと笑う。



オレはこの何もかも揃った空間で次なる・・・。

ツンツン。

お、綺麗な花だね、ありがとう。

ニコォっ。



オレはこの何もかもが揃った空。

ツンツン。

パタパタパタ。

ん、追いかけっこかな?よぉーし!

ダダダダダ!

パシッ!


逃げる背中を捕まえて抱き上げる。

そのまま地面に転がって、二人してケラケラ笑った。



この子ねー、ほんと可愛い!

オレがちょっと反応するだけで満面の笑顔を返してくれるんだよ。



この花きれいだね。

ニコォ。

天井のキラキラきれいだね。

ニコォ。

ご飯美味しいね。

ニコォ。



もう可愛くって可愛くって・・・オレの中で父性がメキメキ育っていく。

おかしいな、嫁さんなんか居ないのに子供ができた気分だ。

ん、次の一手?

あー、まぁそのうちな。



こうしている今も、座ってるオレの膝に飛び付いてきて、またニッコニッコ笑うんだよ。

もうやられたね、完全にさ。

オレの心が、斜め45度の鋭角でバッサリ斬られたよね。

だからオレは、この何もかもが揃った空間で、シルヴィアと楽しく過ごすことにした。



そんなに広くない事もあって、ずっと一緒にいた。

もうベッタリと言っても良いかもしれない。

起きてるときも。

ご飯の時も。

遊ぶときも。

寝るときも。

いつだって一緒だ。

もしかするとシルヴィアは、いままで独りだったのかもしれない。

オレが居られる間は、側にいてあげよう。



モコはというと大抵寝ている。

完全に寝ている時間は短いようで、大半は微睡んでいるだけのようだが。

シルヴィアとの生活の中で、気が向いたときはたまーに間に入ってきたりする。



  君たちさぁ、もう少し遠慮したら?一応ここは僕の領域なんだよ?



目の前で顔を洗いながら、呆れた声を出しているモコ。

声さえ聞こえなきゃただの猫なんだがな。

シルヴィアが指先でモコの顔を撫でてあげた。

ンンーーって言いそうな顔しちゃって、ほんと普通の猫だな。



そんな日々が何日か続いた。

オレとシルヴィアがいちゃついて、たまにモコが混ざる。

あのときと比べて随分と平和だな。

いっそこのまま暮らしちまうか?



なんて願いは叶わず、やっぱり世の中ってのは甘くできていない。

ある朝、モコが普段からは考えられない厳しい声でこう言った。



  これはちょっと不味いね、君たち見つかっちゃうかも。


「見つかるってどういうことだよ?!」


  魔道兵っていうんだっけ?アレが動き出したみたいだ。遠くでそんな気配がするよ。


「ここも安全じゃないってことか?」


  洞窟をしらみ潰しに探すんだろうね。あいつらが来たら、入り口の擬態は見破られるかもしれないよ。


「擬態?」


  君初めてここに入ったときに驚いてたじゃない。


「あぁ、そういや壁にしか見えてなかったな。」



すっかり忘れてた、とまでは言わなかった。

シルヴィアが不安そうな顔で見上げてきた。

オレは笑って、頭を撫でてあげた。

少し安心したみたいだ。



いくつかの果実や、灯り用に光る鉱石をもらい、手早く荷物をまとめた。

モコも「君たちが心配だからね、僕もついていくよー。」とか言ってる。

頼りになるのかはわからんが、賑やかになるのは良いことだろう。



こうしてオレ達の休息は、慌ただしく終わりを告げた。

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