第39話  じゃがいもデート

今日は娘とデートの日。



うーん、良い響きだね。



今日は娘とデートの日。



うん、何度繰り返しても良いものは良い。

そんな素晴らしい一日は始まっている。

今は朝食のあとの食休み中だ。

今日一緒に出かけるシルヴィアとミレイアは戯れあって、グレンは少し眠そうに、アシュリーはモコを膝に乗せ、エレナは紅茶を飲み、リタはコロのノミ取りをして過ごしている。

シルヴィアは今日どこへ出かけるか、昨日の段階で決めていなかった。

だから今日も決めていなかったら、綺麗な水場やら高原やらに連れて行こうと考えていたが。



「おとさん、今日は畑に行くの。」

「畑って、そこの畑でいいのか?」

「いいの、おいもさんほるの。」

「あー、そういやそろそろジャガイモができてるとか言ってたな。」



オレが領主様(笑)な仕事をやらされるまでは、自分の手で畑の管理や収穫やらをしていた。

さすがに最近は自分の手が回らず、収穫の半分を条件に街の人に代わってもらってたんだ。

半分でもすげえ収穫量なんだけどな。



この森で農業すると今までの常識が破壊される。

アホみたいな量が採れるし、生長スピードの異様そのもの。

そのジャガイモも、植えつけてからひと月で収穫までいける。

種イモ植えてから半月程で花が咲いたときは、つい変な声が出たな。

他の作物も同じで、通常の数倍の速さで育つから、この森はどうかしてる。

「豊穣の森」なんて言ってるけど限度があるだろ。



「アシュリー、どうしてこの森ではあんなに作物が育つんだ?」

「え、知らずにやってたんですか?魔術を扱うものにとって初歩的な話なのに・・・知らないでやってたんですか?」

「・・・イラッ。」

「えーっと、かい摘んで説明しますね。ラナとマナの積集合をα群そして和集合をβ群としまして逆位相関係にあり一様の性質をもつ2つの演算によって定めた」

「オーケー、オレが悪かった。この森だとたくさん取れる、すげー!でいいや。」

「こんな話、私からすれば寝ぼけてても理解できる内容なんですがねー、やはり人族には難しすぎましたか?でもいいんです、私が知っていれば。私がアルフのできない部分をしっかり支えますから。私そういう健気な一面もあるんですよー?この頭脳分野ヒモ超人!」



オレは苛立った分だけアシュリーの頭を前後にシェイクしてやった。

やーめーてー!髪みだれちゃーうせっかくのセットみだれちゃーうとか言ってるが知らんな。



「乱れ髪、うん乱れ髪か。確かそれも男心をつかむと聞いたような。それはボサボサ頭と一体どのような違いが・・・。」



エレナ、最近のお前の独り言怖いから。

目を細めてボソボソ言うのほんと不気味だから。

あと最近酒瓶を散々に空けてから「少しだけ、酔ってしまったな」って言うのやめろ。

しかもこっちチラチラしながらなんて、嫌味か?

妙に下戸でコップ一杯飲めないオレへの当てつけか?



それからしばらくして畑に向かった。

シルヴィアとミレイアに加え、グレンも参加することになった。

一度その畑を見てみたいらしい。

オレもここ最近見てないからな、気にはなっているのだが。

家から15分ほど歩いた所に畑を作ってある。

森の湖に近く、陽のあたりの良い場所を選んだからだ。



畑にたどり着いて絶句した。

いや、さすがに頼んでいただけあって手入れはしっかりされている、手入れはな。

問題は作物の方だ。

しばらく見ないうちに何があったんだ・・・。



これはトマトでいいんだよな?

キャベツくらいのサイズじゃねえか。

しかもその巨大な実がなっているのに、苗は当然ですと言わんばかりの姿でまっすぐ伸びてるし。

こっちになってるのはきゅうりか?

子供が座って遊べるくらいあるじゃねえか。

実際シルヴィアは乗ったりしてるし。

そして作物から感じる季節感もクソもない。

みな好き勝手に実り、我が世の春を楽しんでいる。



グレンは目を見開いて

「でっか!何これ、こんなの見たことないよ?」

と言っている。

オレも全く同じ気持ちだよ。



ミレイアは周りを見渡しながら、

「ここは日当たりもいいし、風通しも良いからよく育ちそうですよね。」

なんて言っている。

ミレイアって、実際に不思議な出来事に出くわしても反応薄いよな。



しかし代わりを頼んだ街の人も、これには手を焼いてるだろうな。

収穫するだけでも異様な重労働だろ。

もう少し依頼について考えてあげないといけないかもな・・・。



それでさっそく皆がジャガイモを抜こうとしたが。



「おとさん、これとれない!」



あー、やっぱりそうだろうね。

正直地面の中を想像したくないけど。



「アルフさん、これどうなってるんですか?!」



それはオレが今一番聞きたいことかもな。



「魔王様、このマンドラゴラ手強いです!」



その手に握ってるのはジャガイモの茎だけどね。

そもそもマンドラゴラだったら抜けちゃダメなんじゃないかな。



「じゃあ皆で一緒に引こう、せーのっ!」



オレの合図で引っこ抜いた。

ズボッと抜けたから皆で仲良く尻餅をつく。

そこにはジャガイモ?らしきものがあった。

人間の頭くらいの大きさのものが、ズラリと。

食べ物とわかっていてもこのサイズは不気味だな。

これを抱えて持って帰ると思うと既にウンザリする。



「おとさんオバケ!おいものオバケ!」



そういって嬉しそうにジャガイモをペチペチ叩くシルヴィア。



「引き抜いたのに悲鳴があがらないなんて、新種なんでしょうか?」



そうだね、もし悲鳴があったら全滅してたから、聞こえなくてよかったね。

え、マンドラゴラはお湯で茹でると魔力が増すって?

うん、これを茹でたら魔法がかかったように美味しくなるかもね。



それからはというと、みんなで運べる分だけ運んでいった。

見た目に比べてそれほど重くないのは助かるが。



「おとさん、デートって楽しいね!」



シルヴィアは楽しんでくれたようだ。

たぶんデートとは違うけども。



家に持ち帰るとリタが微妙な笑顔で迎えてくれた。

料理する側としてはメチャクチャ扱いづらい食材だろうな。



そう思いつつも、巨大なイモの扱いについて丸投げしたのだった。

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