第34話 復興と戦略と生菓子と
レジスタリアの街のあちこちから聞こえて来る活気の良い声。
金槌を振るい、掛け声が響き渡り、荷馬車が駆け巡る。
街は今まさに復興の真っ最中だ。
今のところ住民の生活必需品は全て配給で賄われているので、商店は軒並み閉まっている。
だがゆくゆくは前以上に賑わう街並みになって欲しいと思う。
オレはクライスと共に、街の防壁の見張り台から街を眺めていた。
「やはり大量に物資を集めたのがよかったのでしょう。復興作業が随分捗るようになりました。」
サクッサク
「王国軍との戦争の時、街の方で何か混乱はあったか?」
サクサクッサク
「特にこれといって。念のため外出制限をかけましたので、街の外から木材を取れないなんて嘆願がありましたが。」
サクッサクッサク
「ならいい、行商人による流通については?」
サクサクサクッサクッサク
「むしろ向こうから何度も連絡が来るほどです。この前の儲けが忘れられないのでしょう。」
サクッサ・・・ゴッホゴホッ
「次に王国に対してだが」
「ゴホッゴホ!カハッ!!」
「おい、お菓子なおじさん。話すときくらい食うのやめろ。」
クライスは大きな袋からお菓子を取り出してモリモリ食べていた。
魔法の袋かと思うくらい、次から次へと出てくる出てくる。
つうかこんな場面じゃせめて焼き菓子だろ、クッキーとか。
なんで生菓子まで入ってんだよ。
生クリーム使った菓子なんて袋に入れて持ち歩くなよ。
「私はこのように菓子なしでは生きられない身体になってしまいました。領主様、責任をとってください。」
「こっちに何の落ち度があるってんだよバカ野郎。」
こんな奴が一応政治面のトップ。
最近は街の子供たちの人気者だ。
お菓子くれるおじさんってことで。
街で配った分の菓子の代金や代替品を要求するコイツを、そろそろオレは怒鳴っていいんだろうな。
菓子を持ち歩かないければいいって判断に至らないコイツを。
「対王国についてですが、無力化した王国兵たちはそのまま帰したので?」
「そうだな、わざわざ殺すのも気が引けたし、オレは恨みとか持ってないし。」
「それが良いでしょう。魔王軍の恐ろしさを語り草にしてもらわねば、またすぐにでも戦争です。」
「次の一手はどうすればいい?」
「王国の首脳陣の首をすげ替えたいですな。できれば穏健派や亜人共存派の人間なら満点です。」
「簡単に言うけどお前なー。」
「今の王とその側近は狂信的です。その盲目的な信仰心から、亜人の存在を認めるどころか殺意まで抱いています。良き隣人にはなれません。」
「理由はオレにもわかるよ、首変えた方がいいって理由はさ。」
でもそれを達成するのにどれだけの障害があると?
城下にたどり着いて、城門を突破して、城内にうまく忍び込んで、警備のある中で重役を暗殺するとかして、さらに新しいリーダーを用意する。
これS級難度のミッションじゃねえか、できるわけねえだろ。
「まぁ、そこはこう・・・魔王とやらの力でホイホイッと。」
そんな投げやりな案を出す参謀に殺意すら湧いた。
うちの知恵袋は穴だらけで困る。
「相手方が混乱して体制が整っていない今がチャンスです。防衛や警備体制も大きく穴が空いてる事でしょう、万全のときに比べて遥かに簡単なはずです。」
「まぁやるだけやる、上手くいかなかったときの次善策を考えておけよ。」
こうして糖尿おじさんと別れた。
帰宅してからはグレンの工房の一角を借りて、とある魔道具の製作にかかった。
プリニシア王国相手の最後の一手に必要なアイテムだ。
過去の製作の時よりも魔力を使わずに作業できている。
モコのおかげだな、本人曰く終わりの見えない地獄の作業、のな。
アシュリーから30枚近く製作のために羽をもらってきた。
これにとある魔法を籠めて、小さな鉱石を羽に嵌め込むことで、力を封じて安定させる。
せいぜい20もあれば足りるだろうが、念のため30用意しておこう。
それにしてもアシュリーに羽をよこせ、と伝えた時の表情はすごかったな。
「え、羽が欲しい?この艶やかで白くまばゆいこの羽が欲しいんですか?アルフもとうとう私にメロメロゥですか、もうーしょうがないですねぇー。私そのものじゃなくて羽だけ欲しいって倒錯が酷すぎますよ?でもいいんです、私は受け入れちゃいます。ただ、一体何を企んでるかくらい教えてくださいよー?このド変態魔力オバケ!」
イラついたからむしるように羽貰ってきた。
やーめーてー、羽いたんじゃうー傷がついちゃうーーーとか聞こえたけど全部無視した。
そしてエレナがそれを眺めながらボツリと、
「アシュリー殿は傷物になったか。私よりも先に・・・傷物に、してもらえたのか・・・。」
とか呟いてた。
すっげ怖いあいつ。
最近ぼんやりしてるし、すぐうわ言つぶやくし、オレを遠くから見てたりするし。
疲れてんの?働きすぎなの?休暇出そうか?
この前も これはどうだろうか、なんて色んな種類のプレストプレート着ながら聞いてきたのも困った。
全部鎧だろ、一緒だよって言ったらショボンってなってた。
いやほんと何て言えばよかったんだよ、扱いづらさが跳ね上がってるぞ。
そんな割とどうでもいい事を頭によぎらせながらも作業は進む。
すぐ側からグレンの解体作業の音が間断なく続いている。
うーん、なんかいいな、この環境は捗るな。
そんな事を思いながら魔道具をせっせと作っていった。
一つの時代を終わらせるために。
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