第35話  戦の終わりに 前編

プリニシア、王自ら大軍を率いるも 戦うこともできず敵前で壊滅!



大陸中にこのような報せが飛び交った。

あるものは魔王の強さに恐れおののき、

あるものはプリニシアの凋落ぶりを嗤った。

全てが事実であり誇張されていないので、反論の余地はない。

ただただ、歴史的な大敗北を前にして苛立つだけだ。



「まずは帰還兵の再編入を」

「バカな、あのもの達はもはや役にたたん!子供の方がまだ勇猛に戦えるぞ!」

「兵の育成にどれだけの金と時間がかかると思っている、数千もの人員を簡単に入れ換えられるものか!」



普段は顔を見せない重臣どもも領地からはるばるやってきている。

祖先の功績だけで今の地位に居る無能ども。

普段はろくに働きもしない役立たずの癖に、批判をするときだけ声が大きくなる。

こいつらも機会があれば神の名の元に粛清してやる。



「力を蓄えるまで、レジスタリアは放置するしかあるまい。」

「あの地を手放せと?!今後食料が決定的に不足するようになるぞ!」

「モノの流れも変わってきておる、我々の財政も近々苦しいものになる。」

「ではどうやってあの街を落とすのだ!あの大軍でも辿り着くことすらできなかったのだぞ!」

「フン、大方森の影を化け物と見間違えたのよ。まともに戦えばプリニシア軍が人外どもに負けるはずもない。」



私は臆病者と罵った男を睨み付けた。

その視線に気づいた周りの者はさすがに口をつぐんだが、視線の先の男は饒舌に、独壇場に心を良くして話し続けている。


次に殺すのはお前だ。



そう無言で考えていると、隣に控えていた妻のエリスに話しかけられた。



「あなた、民は今大きなショックを受けています。あまりの出来事に自信を失っております。」

「黙れ、女が政治に口を挟むな。」

「いましばらく、せめて皆が立ち直るまで戦いはどうか。」

「黙れ。」

「死者は驚くほど少なかったのです。話次第では共存の道を」

「黙れと言ってるだろうが!」



杖で顔を殴り付けてやった。

傷でもついたのか血が流れていた、いい気味だ。

こうでもしないもコイツは黙らない。

共存だと?

これだから女は!

あれだけの屈辱を受けて手を取り合う事などできるか!


この女は何かと口うるさい。

先代女王であるの私の母上を少しは見習え。

一度だって父上に楯突くことの無かったあの母上を。



「あーい、おじゃましますよー。」

「皆様いかがかしら?お邪魔するわよ。」



まるで友人宅に呼ばれたかのような、明からさまに場違いな声が謁見の魔に響き渡った。



______________________________________




うんうん、居るね偉そうなのが。

雁首揃えているね、よしよし。

撃ち漏らしがあったら困るからな、責任者が揃ってるタイミング見計らって正解だったな。


ちなみにここに来るまで、抵抗らしい抵抗無かったぞ。

あり得んくらい気落ちしてるのか、まぁ幻術がかかるかかる。

関所も門も場内も、リタがちょいっと魔法を使っただけでここまで来れた。

いくらなんでもザル過ぎるだろ。

よっぽどあの負けっぷりが堪えたのか?

まぁそれはどうでもいいか。



オレはさっそくお手製の魔道具を、この場にいた全員に投げつけた。

惚れ惚れするようなコントロール、見事全員の方に羽状の魔道具が刺さったな。



「!・・・貴様、いったい何を?!」

「うごかれっと面倒だから、封じさせてもらった。これからは会話以外はできねえからなー。」



バインドと呼ばれる、身体の抵抗を奪う精神魔法だ。

それが羽に封じられている。

肩に当てたから、首から上だけしか動かすことはできないはずだ。

<抵抗>って言う概念もあるが、そんな芸当ができそうなやつは居ないようだ。



「主導権が誰にあるかはわかってるな?これから質問に答えてもらうぞ。」

「ふ、ふざけた事を」

「黙ってろ負け犬。じゃあまずはお前から。『お前は獣人に今まで何をした?』」



端から質問を投げ掛けていく。

・・・無視ですか、そうですか。

でもオレに沈黙は無駄なんだなー。

お前らの頭ん中フルオープンだからな。



まずお前、うんクロ。

嬉々として殺しまくったな、ギルティ。


次はお前、うーんまぁいいか。

無理矢理やらされてたって感じだからな、その程度ならまぁ、セーフかな。


次はお前だが、・・・マジかよおい。

嗜虐趣味とかロクなもんじゃねぇな、完全にギルティ!


んで次はおま・・・お、お前ー!

そのふざけた趣味はなんだ!アホかふざけんな!どっかの世界の法律で裁かれて社会的に死ね!つうかすぐ死ね!!



・・・・・・はぁ、ようやく終わった、マジしんどい。

これ絶対魔力消費の疲れじゃねぇぞ。

どいつもこいつも暇なのか、ろくな嗜好してねぇ。



比較的上の身分ほどやらかしてやがったな。

無罪ゼロの総決算。

中級貴族の方は、まだマシだったな。

中にはこっそり獣人を支援したりしてるヤツも居たり、そこは意外だった。



「どこまでも不遜な態度、我が神が決して!決して許さんぞ!」

「ふーん、じゃあ当ててみろよ。神罰。」

「な、なんだと?」

「お前やたら神がどうのっていうけど、ほんとにそれ神様とやらが言ってんのかって。」

「う、うるさい、でき損ないの亜人の分際で!」

「あ、言っとくけどオレ人族だから。お前らと一緒。」



全員がハァッ?って顔をした。

まぁそうだよな、こんな人間いるわきゃねぇって思うわな。



「さ、お前らの裁判第一審は終わった。じゃあ次は運命の第二審な。」

「なにを、いったい」

「あーあー、行きゃわかるからイチイチ聞くな。」



そういってオレはギルティの奴等をロープで縛り上げた。

ロープはエレナから借りたんだが、アイツこんな大量のロープなんに使う気だったんだ?

オレは縛り終えた後全員を引きずってテラスから外に出た。



「じゃあリタ、ここの見張りを頼む。」

「ええ、行ってらっしゃい。気を付けてねー。」



オレは獣人の町へ飛び立った。

獣人の町に着くと騒然としたな。

そりゃ急に空から魔王と十数人の人間が降ってきたらヒビるわな。



「魔王様、そやつらは・・・!」

「おう、もちろんプリニシア王とその重臣様御一行だ。」



ザワつき出す獣人たち。

騒ぎを聞き付けて続々と集まり出す。

目の前には家族を、故郷を、愛する人を奪った張本人が引き立てられている。

瞬く間に町の住民が集結したのも、頷ける話だ。



「ひ、ヒィ!」

「助けてくれ、死にたくない!」

「わ、私は悪くない!皆と同じようにしていただけで」



見苦しい言い訳タイムが始まったよ。

同じことを言ったであろう獣人達をお前達は何人殺してきたんだ?

しかも生存競争のためじゃなく、冗談半分遊び半分でな。

同情の余地は全くねぇよ。



「じゃオレは用があるから。コイツらは好きにしていいぞ。」

「ほ、本当によろしいので?」

「ああ、煮るなり焼くなり刻むなり、好きにしろ。」

「待て、魔王!」



プリニシア王が目を怒りで真っ赤にしている。

このおっちゃんコワイヨー!



「私は、プリニシア王だぞ!こんなことが、こんなことがあって良いものか!このような蛮行は神が決して許さぬ!」



まーたそれか。

ほんと学ばねえよなコイツ。

それになんだその都合の良い神様は、お前の保護者か?母ちゃんか?



「だから、じゃあその神様に助けてもらえっつの。さんざん神の名の下に亜人を殺したんだろ?今こそ助けてもらうタイミングだろ?」

「き、貴様!貴様ァア!!」



あーもうだめ。

話通じない子はさよならねー。

オレは振り返らずに王城まで飛んで行った。



その後そいつらがどうなったかは、オレは聞いてない。

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