第24話  娘の責任感

午前の仕事をダラダラ片付けて、

リタの昼食でお腹を満たし、

習慣になりつつある三人分の紅茶をのみ、

午後も仕事やりますかって思っているのだが。



なぜか足はグレンの作業小屋に向かっていた。

小屋というかほぼ家か、広めの作業スペースに水場、兄弟用の部屋まである。

オレは本当にフラフラという感じに小屋に入った。



「アルフさん珍しいね、ここに顔出すなんて。」

「ああ、ちょっとなんか、生き方に疲れを」

「なんか大変だね、領主様になったらしいし。」



アハハとグレンが気遣うような笑いを投げ掛けた。

この少年は本当に心優しいんだろう。

いつだってオレの気持ちを汲んだような、労るような返事が戻ってくる。

さすがお兄ちゃん、頼りになる!



「でもここは作業場だから、何もお構いできないけど。」

「あー、いらんいらん。さっき紅茶3杯も飲まされたばかりだ!」

「そうだったね、アレは一体何があったの?」

「いやそれはオレこそ知りたい。」



苦笑しながら作業に戻るグレンに、その背を見守るオレ。 

子供なんだから仕事はしなくていい、と言ったんだけど譲らなかったんだよな。

妹まで助けられて二人の面倒まで見てもらって、その上働かないなんて無理だよ。

そんな固い意思があったから、いくつか空白だったうちのひとつ、魔獸の解体をやらせたんだっけ。



筋が子供とは思えないほど良いと、絶賛していたのは教えていたエレナ。

これまでもなんとか食べていくために、色んな隙間仕事をやってきたおかげだとか。

お兄ちゃんマジイケメン。


ちなみに作業小屋はオレが魔法でニョキッと生やした。

おかげでしばらく貧血みたいになったがな。



カキカキカキッ

ギュッギュゥウ、ギュッ

サッーー、カタン


カキカキカキッ

ギュッギュゥウ・・・・・・ギュッ

サッーー、カタン



なんだろこの部屋、すっげ落ち着く!

誰にも気を遣わなくていい、一定のリズムが聞こえる癒しの世界!

あぁ、いつの間にか背中がおっきくなったねぇ。



「なぁ、兄様ってよんでいいか?」

「アルフさん、疲れたなら昼寝が一番だよ?」



ぬぅ、オレの軽口にも即対応できる判断力よ。

ほんと成長したね、お父さんは嬉しいよ。



「その通りだ、オレは寝に戻る。邪魔したな。」

「はいはい、ゆっくりねー。」



グレンの声を聞きながら小屋を出た。

するとポコンと衝撃が足に響いた。

足元を見ると、尻餅をついているシルヴィアたんが!

どこのどいつだシルヴィアたんを突き飛ばしたのは!



オレは光の早さで抱き上げた。



「痛かったね痛かったねぇ、ほらほら泣かないの。」

「ちがうの、いたくないの。おとさんごめんなさい!」

「んんー?何かイタズラでもしちゃった?」

「ちぃがうの!」



ボロボロ泣きながら訴える愛娘。

心の在処がわからない。

おとさん、全く心当たりがないよ。



「シルヴィがお仕事がんばってねって言っちゃった。」

「そうだね、応援してくれたね。」

「だからおとさん、ずっとがんばっちゃった!」

「うん、そうだけども」

「だからたおれたり、ぼんやりしたり大変!」

「うん?」

「おとさん死なないで!シルヴィを置いていかないで!イイコにするから・・・がんばってってもう言わないから・・・!!」




涙混じりの訴えにハッとした。

シルヴィアはオレが働きすぎて倒れることを心配しているのだ。

さらにオレが働きすぎてるのは、自分が迂闊に応援してしまったからだと考えている。



確かにここのところ疲れたところしか見せていない。

隠そうとすら考えていなかったな。

子供というのは大人が考えているよりずっと敏感で、よく周りを見ている。

まだ子供だから、なんてのはこっちの勝手な思い込みでしかない。



この子には両親がいない。

オレと出会う前は正に孤独そのものだった。

それからオレに懐いてくれたわけだが、今度はオレが居なくなるという不安に怯えている。

また、あの日が来るのかもしれない、と。



何不自由なく、楽しく暮らしてもらいたいと頑張ってはいるのだが、なかなか上手くいかないもんだな・・・。

オレは苦笑しながらシルヴィアの涙を拭った。



「シルヴィア、お父さんはね。世の中をもっと良くしたいんだ。」

「よのなか?」

「シルヴィアが大きくなって、あちこちに出掛けるようになったとき、もっともっと楽しく過ごせるようにしたいんだ。」

「シルヴィ、いまでも楽しいよ?」

「もっともっとさ。」



今も世界の半分以上の地域で、獸人差別は激しい。

亜人は処刑か奴隷、なんて地域もあるくらいだ。

せめてその部分くらいはどうにかしてやりたい。 

幼い身で迫害を受けた我が子に、世界は凄く楽しいところだと感じてもらいたい。



「でも、これからはもう少しゆっくりやるよ。前みたいに頑張らない。」

「ほんとう?」

「本当さ、そうだ!明日みんなでお出掛けしよう。」

「おでかけするの?どこに?」

「丁度いいところがある、そこに行こう。約束だよ。」

「やくそく。うん、やくそく!」



あぁやっと笑顔になってくれたな、うん。

それからシルヴィアと約束の舞を一緒に踊り、新しい宝物を見せてもらい、一緒になってお菓子を食べた。

ここ最近はこんな風に長い時間親子で過ごす事も無くなってたな、そこは反省しなくては。



夕方頃には、クライスが当然のように家にやってきた。

見慣れた光景に誰も口を挟まなかったな。



「クライス、オレらは明日から2日ほど家を空けるぞ。」

「! それは困ります!ええ、冗談じゃない!」

「いや、仕事に穴を空けるのは悪いと思うがたまには」

「仕事などどうでもいいのです!」

「おい執政官。それだけは言っちゃダメだろう。」

「私は2日もの間、何を食べて・・・一体何を食べて欲求を満たせばいいのですか・・・。」

「オレんちを軽食屋扱いするんじゃねえよ。」



今まで見たことないくらいの慌てっぷりだな。

そこまで依存する菓子ってなに、こわっ。

リタに目配せして手土産をクライスにくれてやった。



「それはリタ厳選の詰め合わせセットだ。今まで出した物から特に評判の良かった品が」

「領主様、お気をつけていってらっしゃいませ。留守居は私が万全にこなしておきます。」



風切り音が鳴りそうな程の速さで手のひら返しやがって。

まぁ円満で出発できる事を良しとするか、気にくわないがな。



これをキッカケにして徐々に仕事の量を調節しよう。

やったじゃないか、眼鏡野郎。

活躍の場が増えるぞ。

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