第25話  知らない街へ行こう

今日はみんなと一緒に少し遠い町に出かけている。

宿にひと晩泊まる予定で、このメンバーでは初めての外泊だ。

天気は抜けるような青空で、まさに行楽日和な1日になりそうだ。



「雲がきれーい、花がきれーい。」

「あぁ・・・。私はなんて幸せ者なんでしょう。」



右肩にシルヴィア、左肩にミレイアを乗せて歩いている。

シルヴィアを肩に乗せた時に、


「ミレイアちゃんも乗せてあげて。」


と言われたからだ。

それを聞いたミレイアはプルプル震えだしてた。

なんかプォッとか変な声漏れてたな。



肩車はグレンお兄ちゃんね、とも言い始め、

僕は自分で歩けるからいいよ、と彼は朗らかに返した。


じゃあ私が乗りますね、とアシュリーが言い出す。

お前はその羽でフワフワ飛べるだろうが。


では私が乗ろう、とドM剣士が言う。

お前は鎧を脱いでから出直してこい。



そんなやり取りを挟みつつ、のどかな風景を楽しみながら歩いた。



「兄様、レジスタリアの街以外の町なんて、私初めてです。」

「僕もだよミレイア。ところでアルフさん、なぜ突然獣人の町へ行こうと思ったの?」

「まぁ、遠出したいって気持ちと、買い物でもしようって気持ちが半々だな。」



3人のお小遣いもそこそこ溜まったようだ。

というのも普段の使い所であったレジスタリアの街が、今はそれどころではないからだ。

買いたいものどころか、全部配給だからな。

商店なんか軒並み休業中だ。

銅貨が溜まったついでに、シルヴィアは数を20まで数えられるようになっていた。

ちなみに20以降は たくさん らしい。

確かにその通りだ、シルヴィアは本質を見ているな。



朝早めに出発して歩き通して、昼飯を簡単に済ませてからしばらく歩いた頃。

お目当ての町に到着した。

豊穣の森のエリア内にある、知る人ぞ知る獣人の町だ。

この付近の住民が集まる一大拠点になっているのだろう、地図に載っていない割に賑わいを見せている。

獣人とひとくくりに言ってるが、多種多様な種族が集まってるな。

人族もチラホラ見かける。


宿も少ないながらあるし、いくつかの商店や食事処もあったりする。

定期的に冒険者や遠出してきた猟師やらが来るからだろう。

自然と商業も発展していったようだ。

かつてのレジスタリアほどじゃないが、それでも十分なほど拓けている。



さて、まずは宿の手配だ。

3部屋が空いていたから、全部押さえた。

部屋割りで揉めそうな気がするが今は考えないようにしよう。

荷物を預けてから、しばらく自由時間にする事を告げた。



オレは子供たちから離れる気はなかったので、4人で一緒に居ようと言った。

そうすると、私も一緒とリタが言う。

じゃあ私も私もとなって、結局全員で動く事になった。

自由とは一体・・・。

それでもしばらくすると、やっぱり買い物に夢中になりだしたようだ。

自然と集団がばらけていく。



「狐のお姉さん、ベッピンさんだねえ。いっぱいオマケつけちゃうよ?」

「あらお上手さん。んーーーこの調味料は珍しいわ、舌がピリリッとするのね。」


「これは・・・妙に高いと思ったら、珍しい鉱石で作った砥石だな。」

「お、ニンゲンなのに随分な目利きだ。高いけどそれに見合った価値は保証するぜ。」


「わぁー、このワンピースかわいいですねー。色の出方がすごく綺麗じゃないですかー。ほんと素敵ですよぉーー。」

「嬢ちゃん肌が白いから似合うと思うわ、試着してみてよ。」


「やっぱりプロの人は違うなぁ、僕じゃあこんな綺麗に型取りできないよ。」

「なんだボウズ、革細工が好きなのか?いい趣味してるじゃないか。」


「ミレイアちゃんどれがいいと思う?」

「この紅い玉なんかいいと思います、地獄の業火のようで。」

「赤いのはもうあるの。このちょっと青と茶色はもってないの。」

「青も捨てがたいですね、亡国の王女の涙のようで。」



うんミレイア、お店の人が困ってるから。

そう、その辺にしておいて。

魔王様はどう思うかって?

うん、綺麗な色だと思うよ、綺麗だなぁって。



「これとこれにします、くださいな!」

「はいよ、嬢ちゃん。銅12枚ね。」

「はーい。いち枚、にぃ枚、さーん枚・・・。」



覚えたての数をひとつずつ数えていく愛娘。

11の辺りから怪しくなってきたけど、よくできました!



「おとさん、買えたよー!」

「そうか良かったな、二つも買えて。」

「うん。こっちはシルヴィの、こっちはおとさんの!」



こっちはおとさんの



こっちは  おと さんの



こっちは






おとさんの!






「おとさんはお仕事がんばったの、シルヴィがごほうびあげるの!」




あああぁぁああああーー!


アッアッァアアーーー!!


シルヴィアにとって決して安くないものを、オレのためにぃいい!

これは家宝に、いや違う、己の心臓の代わりに胸に埋め込まなくてはならない!!



「アシュリー今すぐ古代魔法の」

「アルフ、周りの人が驚いてるからほどほどにね。」



リタが呆れ顔で突っ込んだ。

クソゥ、機会があればいずれやってやる。



それからはみんなで町を散策して、近くの草原で体を休めながら過ごした。

宿に戻った頃は日が暮れていて、丁度食事どきだった。

大きな鍋を頼むと、山菜や珍しい魔獣の煮込みスープで、食べると最後にピリっと刺激が走る。

それがみんなクセになったようで、かきこむようにして完食した。



食事の後は風呂だ。

ここは広めの風呂が二つあり、男女が分かれている。

たいていの宿は一つしかなく、時間制になってるんだがな。


グレンと二人で湯に浸かっていると、女風呂が騒がしくなる。

せいぜい頭の高さまでしか壁が作られていないせいだろう。

お互いの声が丸聞こえの状態だ。



「アルフ、絶対覗かないでくださいねー。」

「アルフ、覗きなんて不埒な真似だけは決してするな。」

「アルフー、男なら覗きたいだろうけど、我慢してねー。」


「大丈夫だ、頼まれたって覗かねえよ。」



「アルフ、絶対の絶対に覗かないでくださいよー。」

「アルフ、コソコソ覗くのは卑怯者のすることだぞ。」

「アルフー、私だけなら見てもいいけど、邪魔者が多いから今は堪えてねー。」



うるさっ。


せっかく湯に浸かってるのにうるさっ。

あいつら静かに風呂も入れねえのか。

グレン兄様を見てみろ、無の境地で湯を愉しんでおられる。

これで10歳だぞ、すげーだろ?



「普通こんだけダメって言われたら、ちょっとくらい見たいと思いません?」

「黙って入ってろ。つうかアシュリー、お前の方こそ覗いてんじゃねえか。」



トリ女が顔だけだしてた。

当然オレらはスルー。



湯から上がってからの事。

部屋割り決めて寝ようという話になる。

シルヴィアは、オレはもちろんグレンやミレイアとも寝たいと言いだした。

まぁ家の中じゃ、今でこそ部屋を分けてるが、最初のうちは一緒に寝てたんだもんな。



「しかしさすがに子供ばかりとはいえ、4人は無理だろ。」

「じゃあ、僕はいいよ。3人なら大丈夫でしょ?」

「兄様、いいのですか!!」



ミレイアが両手を組んで祈るような格好で実兄を見る。

そんな風に言われたら、嫌なんて決して言えないよな。

僕はべつにーっとだけ言い、妹に部屋を譲った。



「でもそうすると僕は」

「じゃあお姉さんと一緒に寝ましょうねー。でもグレン君、君はかわいいからお姉さんはきっと許しちゃうけど、変なことしちゃダメですからね?今すっごい脱げやすい格好ですけどダメですからね?ほらこんなにも脱げやすいですよ?」

「アシュリーさん近いよ、もうちょっと離れてよ。」

「そこのトリは純朴少年からクチバシを離せ。」



そして皆部屋に入っていった。

オレらはというと、二つのベッドをくっつける事にした。

オレが真ん中、シルヴィアが右側、ミレイアが左側という川の字スタイルだ。

ここにグレンがいない事が少し不満だったシルヴィアもすぐに眠った。

ミレイアはというと震えながら、私は今日という日を忘れません、とか言ってるが何の話だか。



それにしても、みんな思い思いに楽しんでくれてるようだ。

近めの旅行だけど、企画して良かったな。

次はもっと遠くに足を運んでみよう。



そうしてオレは、久しぶりに長時間の睡眠を味わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る