第23話 トリート or トリート
「やはり厳しいですな、給与の統一とは」
サッ パシン!
「諦めるの早すぎるだろ、もっと粘れよ。」
ササッ ペシン!
「理念としては素晴らしいですが、人はそれだけでは付いてきません。」
グイッ ガシリ!
「より良い国の為にオレは知恵を絞った、お前はそれに応える義務がある。」
グググッ
「領主様、さっきからお菓子が頂けないのですが。」
「食うのはちゃんと仕事の話が終わってからだこの野郎。」
あーそうですかと不貞腐れるダメ眼鏡。
あのさ、オレ領主。
お前は部下なの、BU・KA!
BA・KAに変えるぞ、オウ?
「やはり賃金の統一というのは不可能です。皆が安全な仕事ばかりを選択するようになり、兵士や傭兵などの危険な仕事に誰も就こうとしなくなります。」
「世襲や任命制にすればどうだ?」
「士気が保てません。なにせ土いじりしても、酔客の相手をしても、魔獣や夜盗を撃退しても収入に大差がないとなれば。」
「それは名誉や賞賛で補う事はできないのか?」
「それでなんとかなるのは官吏だけです。それも中々厳しいでしょうが。」
「では打つ手なしという事か?」
「いえ、そこで最低賃金制度の導入です。」
クライスが眼鏡をクイッとあげた。
ようやくスイッチが入ったらしい。
手を菓子に伸ばす事も止めている。
「一定時間や一定条件を満たした労働者に対して、一律の金を支払います。これはどの職でも同じ額にします。そしてより勤勉であったり、成果を出したものには加点する形で上乗せします。」
「ただの加点ではさっきと同じ話だな。」
「加点率を職によって変えます。例えば他のものより多くの食肉を捌いた者に1点のところ、街の防衛をした者にそうですね・・・、4点といった具合にです。」
「危険な仕事、重要度が高い仕事に高加点を設定するのか。」
「同時に職権乱用や不正を働いた者には減点をします。不正が起きやすい職には独立した調査機関も設置しましょう。」
「その対策でひとまずは、日が暮れるまで働いても食うに事欠く奴も、仕事がロクにできないクセに酒場に入り浸るような奴もいなくなる、と。」
「ゼロとまでは言いませんが、大きく改善されるでしょう。」
「これで不正や社会不満は解消できそうか?」
「解消は無理ですね。人間社会の闇を完全に晴らすことはできません。歪みがいくらか正される程度です。」
こまめに気を遣い、都度変化を与えれば長持ちする制度だろうと言って、クライスは締めくくった。
最低賃金の額と加点方式について今度は考えなきゃな。
「そういえば流通の件はどうだ?」
「思いの外好調のようですね、毎日商談がひっきりなしで悲鳴をあげてましたよ。最初は半信半疑だった商人たちも、実際に金が支払われたとなるとこぞってやってきたとか。」
「それは良かった、あの夫妻にはだいぶ助けられたな。あとでちゃんとお礼をしないとな。」
「領主様、あなたの忠実な臣も骨身を削って働いてますよ。」
「お前にはエサを毎日のように与えてるだろ。」
最近では毎日のように訪れるようになった。
報告や相談がなくても当然のようにやってくる。
今日の報告は・・・何もありません、ごちそうさまでした。
そういって帰って行ったときは流石に目を疑ったぞ。
まぁ紆余曲折しつつも、多くのことが前進できているな。
復興の為の作業も、例の暫定紙幣による支払いも始めている。
最初はこの紙幣の価値について、街の人たちは半信半疑だったらしい。
それでも文句をあげてこないのはオレを恐れているせいだろうか。
ちなみに「働いたのに支払われなかった」と訴えに来た子供たちがいた。
働いた人間には大人に週2枚、子供に週1枚配るようにしていた。
仕事を差配した人間を問い詰めると、あれこれ言い訳をするばかりで埒が明かなかった。
だから心を読んでやったが、やっぱりギルティ。
紙幣の持つ機能の事を信じてなかったから、一人で独占しようと考えたらしい。
子供なら騙せるし、怒らせても怖くないと考えたようだ。
罰としてそいつの持っていた紙幣を一枚残らず焼いてやった。
2週間分の仕事がタダ働きになってしまったな。
これに懲りたらズルせずに働く事だ。
そんな出来事があるとやはりすぐ噂が広まり、同じような陳情は聞かなくなった。
「物資もそれなりの量が入ってきましたが、いかがされますか?」
「食料や衣類は均等に配るように、医薬品は治療施設にまるまる渡せ。」
「それはもちろん、それ以外については?」
「もうしばらく貯めておけ、紙幣の流通を待ってからだ。」
「ふぉうでふか、委細しょうひいはひまひあ。」
あ、コイツいつの間にか菓子食ってやがる。
まぁいいか、話は大体終わったし。
食いだしたってことはコイツの中でも話は無くなったって事なんだろう。
言葉を交わさず気持ちが通じてしまって、凄く嫌な気分に晒された。
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