第11話  苦労人の条件

オレ達は遠くから魔王らしき男を観察した。

何はともあれ情報だ。

戦うにしても、交渉するにしても、何も知らないままでは話にならない。

幸いまだ気づかれていないようだから、慎重に動こう。



「案内は終わりました、では私はここで」

「行く末を見届けないのか?」

「まだ死にたくありませんので、では!」



とんでもない早さで逃げ帰った案内人。

さながら脱兎、いや早馬のようだった。



「そもそも戦力じゃなかったから、放っておくか」

「リーダー、どうすんだよ。戦わないのか?」

「まずは調査だ。いいか、決して気取られずに。じっくり相手を」

「あれは、獣人?! 狼系の獣人!」

「クゥス、どうした?」

「よっしゃぁぁあー! 獣耳少女じゃーーい!」

「ま、待て! クゥス!」



さっきの案内人と勝るとも劣らないスピードで駆けていくクゥス。

あんのバカ……、これじゃ調査なんかできねぇだろうが!

魔王相手になんで無防備になれるんだか。

オレはフェチ道の業の深さを痛感した。




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シルヴィアと一緒になって『アリさん貴族ごっこ』に興じていると、突然叫び声が聞こえた。

あれは、人間の女か?

ちょっとあり得ないスピードでこっちに駆け寄るソイツは、やはりちょっと異常な目をしていた。


シルヴィアを守るように一歩前に立ち、女に向かって小石を放った。


「獣耳ぃー! 獣耳しょうじょ……グヘッ!」



女は半回転して頭から地面に倒れた。

今のは大丈夫なヤツか?

症状が酷ければリタに治してもらおう。

オレは遠巻きにしている二人組に声をかけた。



「そこのお前ら! コイツの連れだろう? なんとかしろ!」



少し間があってから返事が返ってきた。



「わかった、すぐ回収するから。落ち着いて話し合おう!」



そう言って両手を挙げながら近付いてきた。

落ち着くも何も、オレ達はいつも通りだってのに。

重装備の男がさっきの女を抱き起こした。

目を覚ますとすぐに立ち上がれたから、大事はなさそうだ。


「うちのモンが迷惑をかけたな。オレ達は只の冒険者だ」

「ほぅ……で、オレを殺しにでも来たのか?」

「……! どうしてそう思う?」

「遠巻きに見てたろ、探るように。闘気も剥き出しでな」

「そこまでバレてたか、敵わねぁな」



闘気は感じたが、敵意は見られなかった。

それは目の前に現れた今も変わらない。

達人にもなると、気配の全てを消して攻撃できるらしいが。

コイツらにそんな芸当はできそうもなかった。

話し声を聞いてか、家からリタが顔を見せた。



「あら、アルフ。お客様?」

「客と言えば客、刺客といえば刺客かな」

「んーー、随分と幅のある方々なのね」

「待ってくれ、できれば穏便に事を運びたい。オレらに害意の無いことだけはわかってくれ!」

「確かに、あんな絶叫をあげながら突貫ってのは……有り得ねぇか」

「理解してもらえたようで何よりだ」



ホッとした空気が流れ、全員が警戒を解いた。

さっきの絶叫女がモジモジしている。

何か言いたいことでもあるんだろうか。



「どうした、そんなにソワソワして」

「アヒッ! えっと、その女の子の耳をさわりたくってですね」

「シルヴィアだ。本人が許せばオレは構わん」

「シルヴィアちゃんって言うの、素敵な名前ね! ねぇ、あなたの耳を触らせてくれない?」

「ちょっとだけなら、いいの。たくさんはヤなの」

「ありがとぉー! うわツルッスベやん、たまんねぇ。これで飯三杯はイケらぁ!」



なんかコイツ気持ち悪ぃ。

仲間に目を移すと、同じような顔をしていた。

変なヤツに手を焼いているという感じか。


何となくリーダーの男に親近感を覚えたのだった。

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