第4話  囚われの少女 救出作戦

ウィラド協会。

僕は今、妹が囚われている建物の前にいる。

希望が生まれたからか、心は今までにないくらいに高揚している。

不安が無くはないけど、大人が味方についてくれただけで頼もしかった。


僕は道案内を買ってでて、魔王様と側近のエレナさんを連れてきている。

ここは街の一角にある、レンガ造りの大きめの商店だ。

表向きは奴隷商の看板を掛けているけど、裏の顔があることは公然の秘密。

犯罪の証拠もたくさんあるのに、お咎めは一度もないらしい。

そんな事が許されるのも、領主と裏で繋がってるからだとか。



「あそこです。あいつらが誘拐犯です」

「己の利益の為に人さらいか。それも6歳の子供に手をだすなど、許さる事では無い」

「あーーほんっとめんどくせえ、とっとと皆殺しにして帰るぞ」



心を読むなんてできない僕にも、この二人の気持ちは良く理解できた。

エレナさんは怒り心頭、魔王様はやる気ゼロといったところだ。

口から気力が漏れてそうな顔だけど、あのシルヴィアという女の子の約束のために、ここまで来てくれた。

どうやら「妹ちゃんがここに来てくれるまで寝ない!」なんて言ってたようで、渋々承諾してくれたのだ。



「シルヴィアを早く寝かせたい。だからパパッとやっつけるぞ」

「ええ? ちょっと待って……」


いくら急いでるからって、下調べも何もしないうちに乗り込むのはどうなの?

僕の不安を他所に、魔王さまは軽い足取りで入り口に向かってしまう。



「なんだテメェは! それ以上こっちに来るんじゃねぇ!」

「うっさい黙れクズ」



魔王様が両手をおもむろに広げたかと思うと、門番の男2人はドサリと地面に崩れ落ちた。

魔法……でも唱えたんだろうか?

それにしては詠唱らしきものは聞こえなかったけど。

不思議に思って門番の顔を覗いてみると、眉間に小さな穴が空いて血が流れていた。



「え? どうしたの?」

「ホラぼさっとすんな行くぞ。」


何事もなかったように入り口を潜る魔王様とエレナさん。

困惑しているのは僕だけのようだ。



「あ、あの殺したんですか?」

「ん? なんだよ、殺しちゃまずかったのか?」



ここの連中は人さらいはもちろん、強盗や窃盗、殺しまで何でもやるヤツらだ。

そんなヤツらなら殺してもいい……のかな?

うーん、どうなんだろうね。

というかそもそも、どうやってあの一瞬で屈強な男達を瞬殺したんだろう?


そう考えを巡らせていると、建物の奥から荒くれ者達が飛び出してきた。

3人、5人と現れるが、結果は同じだ。

戦闘になる前に、皆すぐに屍体へと変わっていった。

魔王様は相変わらず両手を真上に上げるだけ。

そうすると立ちはだかる男達は眉間に穴が空き、確実な死を与えられた。



「この建物は2階までだな。アルフよ、救出対象はやはり地下にでもいるのだろう」

「地下室とかありがちだよなーこんな組織なら。悪いことしてますって感じでよ」



まるで引越しでも頼まれたような気軽さで、アジトの地下室を探すお二方。

もちろん潜入要素なんて全くなくて、エレナさんは物音を気にもせず家具を引っ張り回している。

魔王様なんて床や壁を八つ当たり気味に蹴り砕いている。

おかしいな。

組織壊滅じゃなくて救出目的だったはずなのに。


そうしている間にも、警備の男達が2人3人とやってくる。

今度はエレナさんが手を前に伸ばし、やっぱり男達は動かなくなる。

理屈はわからないけど。


もっとこう……失伝した太古の魔法とか、呪われた魔剣とか、そういうのが出てくると想像してたんだけど。

どちらも出てくる気配が微塵もなかった。



「おい、あったぞ。地下への入り口」



棚によって隠された地下入り口を発見して、僕たちは降りていった。

足音を殺したりなんか全くせずに、それはもう淡々と。


地下は思ったよりも広く、階段を降りた先には詰所のような部屋があった。

そこには酒や料理の乗ったテーブルといくつかの椅子、そして部屋の奥には扉があった。

見るからに重く硬そうで、何かから守ろうとするような意思を感じる。

大切なものを隠すにはうってつけだと思えた。


ーーこの奥にミレイアが?

 

扉の鍵を探す必要がありそうだ。

そうすると、まずは手がかりを見つけなきゃ。


……なんて考えていると、「とーん」なんてやる気のない声が聞こえた。

扉の前に立つ、魔王様が言ったようだ。


するとどうだろう。

扉が刃物で切られたように、バラバラになって崩れた。

切り口は滑らかで、切ったようにしか見えない。

魔王さまの両手は今も尚手ぶらだった。

どうやら僕の常識は、ここでは意味を成さないらしい。


もうあれこれ考えるのはよそう、ミレイアの事だけ考るべきだ。

僕の頭は限界を迎えようとしていた。



「……! お兄ちゃん!」

「ミレイア!!」



扉の向こうは予想通り牢屋になっていて、何人もの子供が捕まっていた。

ちなみに牢屋の鍵も探し出す必要はなくて、同じように魔王様が「とーん」と牢を破ってしまった。



「よかった、ミレイア。怪我はない?」

「うん、大丈夫。みんなと一緒に閉じ込められただけなの。お兄ちゃんこそ怪我はない?」



僕はミレイアの無事を、ミレイアは無茶をした僕を。

互いに気遣い合いながら、僕たちは再会を果たすことができた。

物凄く嬉しいし感謝の気持ちはあるのに、素直に受け入れられない。


それはきっと、ここまでの異様な出来事のせいだと思った。

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