第16話 キョンの戦い
「赤ちゃんは先ほどご家族の方が来てひきとられましたよ」
翌日、再び病院に行った俺たちに返ってきた返答は冷たかった。
窓口の医療事務員はそれ以上は個人情報で教えられないという。その家族とやらは身分証明と出生証明書をもってきて、警察への連絡も終わったらしい。
「こんなことってある? 放置して川に流してあとになって引き取りに来る。誰が何のためにやったのかもわからない。助けた礼の一つくらい言いに来てもいいじゃない」
ハルヒの意見に全面同意するわけじゃないがあんまりだろう。
医療事務員の言葉を聞いた瞬間、ハルヒが
「無事に家族に引き取られたんだからいいじゃないか」
「一言いってやりたいことがあるの!」
「なにをだ」
「子供を放置するようなことはやめろって」
ハルヒは怒りが収まらないらしく、病院入り口の支柱をけった。
「なんかひと暴れしたい気分ね」
俺と古泉は思わず顔を見合わせる。どっちも考えることは同じだ。だが古泉は俺に視線を返すばかりで黙っている。俺にまかせる気らしい。
「ハルヒ、時間あるか」
「何よ」
「たまには映画でもいかないか? アーケードでもいいけど」
ハルヒは腕を組んだまま、俺をじろっとにらんだ。何考えてんだこいつ、そんな顔だ。俺はこれ以上古泉に負担をかけたくない。朝比奈さんにもだ。これくらいでストレス解消できるんなら……こんなことしかできない自分にイラつく。
「どういう風の吹き回しなの?」
「団員としては、その、団長様の苦労を慰労したいというか」
「ふーん」
ハルヒは病院の門柱によりかかったまま、俺を観察するかのように見つめている。
「あんたがそんなことをするはずないわ。
「その、お前の赤ちゃんというか小さな子に対する気持ちは俺にも分かるんだ。妹もいるしな。たしかにひどい話だけど親が見つかったみたいだし。それに俺たちにはまだ謎が残ってるだろ」
「謎?」
「ほら、川の上流の焼け岩の話さ、ミステリーじゃないか」
自分で
「……そうね。あたしもあんまり引きずりたくないし。でも、支払いはあんただからね」
「それはもう」
俺は根拠なく強めに言った。
それから俺たちはこないだ行ったショッピングモールに出向き、飯を食って映画を見てから、夜も遅いのにゲーセンに行った。
リズムゲームでハルヒと熾烈なバトルを展開し、長門までがゲームでハルヒに負けを喫したところまでは覚えている。それからは……はっきり言ってあまり覚えていない。たしかカラオケにもいったな。
俺は何かを忘れようと懸命にゲームやら歌に没入しようとしていたが、ハルヒもそんな感じだった。
気になっていたのは朝比奈さんがハルヒに引っ張りまわされながらも、時折うつむいていたことくらいだ。結局、ハルヒだけが意気軒昂で朝比奈さんが眠そうだったので俺は散会を宣言し、途中までハルヒと朝比奈さんを送った。
いつの間にか長門と古泉はどこかへ消えていた。
あいつら、もしかして……。
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