12-4
全速力で走った。五歳といっても結構な重さを感じる。さすがに速度は上げられなかった。長引かせるのはこの子の精神によくないのでできるだけ早く到着したかったが、あまり欲をかかないで確実に進むことにした。
唯一の心配は機械兵との遭遇だろう。自分一人だけなら逃げるか死んだ振りをすればやり過ごせる自信があるが、スクネを背負っているという危険を考えれば遭遇しないに越したことはない。
俺に縁遠い運がどう作用するかで結果が変わる。ここは一つ、生き残ったスクネの強運に任せてみようか。
目指していた川に到着したのでスクネに水分を補給させた。川の水が身体に合わないかもしれないが、そこは俺の血がどうとでもしてくれる。きっとよい方向にしか影響は出ないだろう。
俺も二日ぶりに水を飲むことにした。
……。
喉に冷たい感覚が走る。悪くない気分だ。この身体も心なしか喜んでいるように思える。
スクネも少し元気を取り戻したみたいで緑色の大地を裸足で踏みしめながら景色を眺めたり川の流れを見たりしていた。
「メイルおにいちゃんはこのままスクネをおんぶしていくの?」
「そのつもりだが、不満か?」
「おそらはとばないの?」
「アイテル、使えないんだ」
「スクネといっしょだね」
「お前はそのうち使えるようになるさ」
「おにいちゃんは、もうつかえないの?」
「どうだろうな。いつかは使えるようになりたいな」
「スクネ、おにいちゃんといっしょにおそらをとびたい」
「そうだな。きっと気持ちいいぞ」
「うん。スクネがんばる!」
なんだか懐かしい気持ちになった。あの頃のレシュアは確か八歳だったと思う。
元気で好奇心が強くて無邪気で幸せそうで、笑顔が吸い込まれそうなくらいに朗らかで全てが輝いて見える、俺とは真逆の存在。
人として必要としてくれた初めての人。
そして、俺の生きる支えとなってくれた人。
……マーマロッテ。
……あの頃の彼女は一体どこに行ってしまったのか。
少年だったあの時にたった一日だけ共に過ごした彼女……マーマロッテが、俺にとっての最後の『レシュア』であってくれたらどんなに幸せだったことか。
時の流れとは、実に儚いものだ。
「おにいちゃん、どうしたの?」
「ん? ああなんでもないよ。そろそろ行くか」
「うん、いく」
小さな身体の温もりを背中で感じながら走った。急な段差に足を取られたりするとスクネの胸が圧迫させられて苦しそうに喉を鳴らした。
辛そうになるとスクネはその都度作り笑いをしてどうでもいいことを口にした。
ただ純粋に、一心不乱になって走っていただけなのに、突然涙が溢れてくる。
走りすぎて頭がおかしくなったのだろうか。
川の水を飲みすぎたのがいけなかったのだろうか。
次はあまり飲み過ぎないようにしよう。
……今はスクネを安全なところに運ぶ。それだけを考えていればいい。
「どうしたの? おなかすいちゃったの?」
「かもな。それよりスクネは大丈夫なのか?」
「スクネはごはんいらない。スクネはいいこだから」
相当空腹みたいだった。時折背中がごろごろと響いてくる。
栄養は俺の血で補えているので問題ない。念のためにもう一度、今度は厳しい口調で追及してみた。
私は食べないの一点張りだった。納得がいかなかったがスクネの意思に従うことにした。
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