8-4



 レシュアが長距離移動に向いていないことを知りながら襲撃に連れて行く意味。

 リムスロットを手薄にしてまで行かなければならない理由。

 そして、急遽部隊に引き入れた男の存在。



 ……やはり、不自然なことだらけだ。



 このまま見過ごしてしまっていいのだろうか。なにかとてつもない現実が近づいて来るような気がしてならない。

 そもそもなぜ俺がレシュアの護衛をしなければならないのか。アイテルを使えない者同士をくっつけるにしても、あまりに展開が出来すぎている。たった今レインとヴェインが企てたくだらない余興だって冷やかしにしてはやり口が巧妙だし、わざわざ要塞襲撃の当日に決行する必要もなかったはずだ。


 それなのに、あいつらは俺とレシュアの仲を取り持とうと必死になって動いている。しかも確実に、なんらかの成果をあげながら、慎重に、それとなく……



 ……俺達の関係向上が異星人との戦争よりも大切なことだとしたら、それはもしかしたら、未来……



 いずれにしろ、真実はそのうち突き止めてやる。このままでは腹の虫がおさまらない。これ以上誰かのおもちゃにされるのはもうごめんだ。

 最も怪しいと思われるレインとヴェインは、今日だけ一時的に都市を離れる。この機会を逃すわけにはいかない。

 あの長話にはうんざりしているが、まずはシンクライダーから探りを入れてみようか……



 レインが部屋から去ったことで解放された俺は、ひとまず農地区域で種おろし作業の手伝いをしに行った。

 出発の直前に顔を見せに来たレシュアは、ただでさえ白い顔をさらに白くして微笑んでいた。

 落ち着かない様子がその体全体から伝わってくる。


「メイルも一緒に考えてくれたからさ、評価してもらおうと思って。どう? 変じゃない?」

「すごく似合ってる。てかよ、まさかそれ着て行くつもりなのか?」

「そうだけど、駄目?」


 昨日二人で作ったばかりの服だった。女の子が着る可愛らしいものにしたいという要望だったので、俺は生地の色と上着の形を考えてやったのだ。

 スカート部分は自分で作りたいというので裁縫の仕方を教えた。飲み込みが早くて手先も器用だった。まあ、雑なところはこっそり修正しておいたが。


 レシュアの身体に収まったそれは、空色が爽やかな印象を与える薄手の夏服に仕上がっていた。まさかこれを着て、ここから遥か北にあるスウンエアに行くつもりなのだろうか。


「うん、分かってる。だからこの下に長袖を着ようかなって。それなら大丈夫でしょ?」

「上下ともか?」

「密着式の防寒素材のやつをレインさんが貸してくれたから。色も白だったし、違和感あんまりなかったよ」


 違和感があると思った。だからあえてここでは着てこなかったのだ。

 つっこんでやろうかと思ったが、気の毒な顔は見たくなかったのでいつもどおりの笑顔を返した。


「それじゃ、行ってくるね」

「またな」


「あ、そうだ」

「どうした?」

「……あの、帰ってきたらなんだけど、その、つまりですね。ええと……」


 交信機から発せられたヴェインの助言が真っ先に思い浮かんだ。


「ごめん。お前とヴェインの会話、さっき聞いてたんだ。レイン達の悪知恵にまんまと引っかかってな」

「ごめん。私も聞こえてた。メイルってほんと、嘘つくの嫌いなんだね」

「今回は機会を窺っていただけだ。はじめから話すつもりだったよ」

「じゃあ、考えてくれるの?」

「考えるもなにも、ばれてしまったんだから一緒に寝るしかないだろ」

「え? 一緒に寝てくれるの?」

「当然だろ。俺が床で寝るなんて言い出したらお前、不愉快になるだろうが」

「へへへ。そうだね」


 幾分か顔色を戻したレシュアは気持ちを切り替えたらしく、最後は凛々しい表情をして去っていった。

 後姿がとても愛くるしく見えて、自然と胸が苦しくなった。


 こんな彼女とはもう会えないかもしれない。

 俺の胸の中に潜んでいる、ある確信めいた衝動が彼女を引き止めたがっていた。

 まだ間に合うかもしれない、そんな言葉が頭の中を駆け巡った。


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