8-2
「で。あんたはなんでここにいるんだ?」
「はい?」
レインは勝手に上がりこんで部屋の中を舐め回すように見ていた。レシュアの下着の場所が悪いなどとぼやいている。全くもって余計なお世話だ。
「たまにはいいじゃないの。ちょっと話しましょうよ」
許可もしていないのに寝台に座りこんで髪型を直したりしている。この人が回りくどいことをしだす時はいつも言いづらいことを言う時だった。追い出してしまおうとも考えたが、話の内容によっては後悔に変わる可能性もある。とりあえず聞くだけ聞いてみようと観念することにした。
と、返事をしようと思ったらなんの前触れもなしに話しはじめた。
なんて図々しいやつなのだろう、この仮面女は。
「ところで、あれからどんな感じ?」
「あれからって、どれからのことだよ」
「なによ。分かってるくせに。レシュアとのことよ」
「そりゃまあ、普通だと思うが」
「普通ってなによ。もっと具体的に話しなさいよ」
「具体的もなにもそのままの意味だ。特に問題はない」
「あのね、そういうことじゃなくてね。あの子とはどこまでいってるのって聞いてるの。もう、こんなこと言わせないでよ。恥ずかしいじゃない」
「どこまで? なにを期待しているんだ?」
「キスはもうしたんでしょ? まさかまだしてないとか言わないわよね?」
「していないが」
「嘘でしょ!? 信じられないわ。……ああそうだ、分かったわ。あなた達、我慢比べしているんでしょ? それなら納得だわ。うん、確かにそれは燃えるわね」
「おい、勝手に決めつけるな! 俺達は別にそういうことをするために組まされたわけではないだろうが!」
「ねえねえ、もしかしてさ。あ、これ聞くの怖いなあ」
「しれっと人の話を無視するな。てか、なんだよ」
「もしかしてハグとかも我慢してるの?」
「ハグってなんだよ」
「やだ。知らないの? こうやって、ぎゅうって抱きしめてあげることよ。まさかそれも?」
「だからどうした」
「これは大変! 緊急事態じゃない! まさかここまで酷い状況だなんて。これじゃあの子があまりにも可哀想だわ。あなた、全然分かってないのね」
「はあ?」
「もう、なんかいらいらする! この際だからはっきりさせましょう。あなたってさ、本当はあの子のこと好きじゃないんでしょ? 可憐な乙女を弄んでそれを楽しんでるだけなんでしょ!」
「なに言ってんだ、あんた」
「だって、分かってるでしょうよ……。それに昨日のあなた、ロルに言ってたじゃない。俺達は子供でも簡単に見抜ける関係だって。ああ、これは見せつけられたってあそこにいたみんながそう思ったわよ。それなのに今のあなたときたら、てんで男らしくない! あの子が聞いてたら絶対泣いてるわ。この、意気地なし! 根性なし!」
面白いほど言いたい放題に言われてしまったので逆に可笑しくなってしまった。
この控えめな八重歯は見せられないが、その無謀な度胸に敬意を表して笑顔を見せてやることにしよう。
「なにが可笑しいのよ。私に喧嘩売ってんの?」
「いやいや、そうじゃない。まあ聞いてくれよ」
「やっと白状する気になったのね。さあ、早いところ吐いてしまいなさい」
「まずな、俺達の関係についてだけど、あんたが望んでいるようなものじゃないってことをはっきり言っておく。好きか嫌いかで言うんだったら、そりゃあ、嫌いじゃない。たぶんレシュアもそうだ。俺はそう感じている。……そもそもな、今はまだくっつき合ってお互いの気持ちをどうこうする段階じゃないんだ。なんつうか、その、もっと自分達のことを知っていかないといけない。この際だから言うけど、俺達は普通じゃない。それにまともな人間でもない。そして俺の勘だと、あんたは俺以上にレシュアのことを知っている。おそらく俺のこともな。でもあいつはそのことをまだ俺に打ち明けていない。まだあいつの心の中では俺を一番に信用しようという踏ん切りがついていないと思うんだ」
「……それは、違うわ」
またこれだ。知っているくせになにも喋ろうとしないこの態度だ。
だから、俺の心も閉じたままなんだ。
「とにかく、あっちにその気があってもこっちにその気はない。それでも俺達はなんとかやってみせる。これじゃ不満か?」
「ふーん、そうね。いいわ、分かったわ。ま、なんとなくあの子の様子を見ていてそうなんだろうなあとは思っていたのよ。だから今日はそれを確かめてもらうためにわざわざ来たというわけ。あなた、感謝しなさいよ。私だって本当は今日の準備したかったんだから……」
レインはここに来た時からずっと手に持っていた交信機を操作しだした。
なにやら手馴れた操作でなにかを呼び出している。
「もう少し近くに来なさい。別に取って食ったりはしないから、さあ」
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