7-2



 シンクライダーの指示に従い医療室に行くとみんなは既に集まっていた。

 いつもの場所に座ると深刻な表情をした部屋の主が、食堂で言おうとして却下された話をみんなに報告した。


「ちょっとあんたさ、そういうことなんでもっと早く言えないわけ? のんびり食事なんてしてる場合じゃなかったでしょうよ!」

「いや、ですから、緊急のお話しだと説明したのに、あなた方ときたらやれ飯が不味くなるだの決まりに反しているだのと全然聞く耳持たなかったじゃないですか」

「わりいわりい。まあそんなにムキになるなって。とにかく今は詳細だ。どうせあれだろ? 行くか行かねえか、誰が行って誰が残るかって話なんだろ?」


 シンクライダーが頻繁に連絡を取っている地下都市『スウンエア』の情報によるものだった。異星文明カウザの機械兵が最近になって急に見かけなくなり不審に思って動向を調査したところ、彼らの都市から二十キロメートル程はなれた場所に機械兵の手によって作られたと見られる『建物』を発見したのだそうだ。

 部隊を編成して送り込んだらしいが、その後二日経っても音沙汰がないのでリムスロットに救援を要請したのだという。


「中継地点、要塞といったところね」

「タデマル君も同じことを言っていました。あそこは屈強のアイテル使いが揃っていたので、僕としても二つ返事で承諾するのをためらっているところでして」

「このまま放っておくのはヤバイだろ。叩くんだったら早いうちにやらねえと」

「そうね。遅かれ早かれここにも影響が及ぶでしょうし、危険であることに違いはないわ。まあ、私達ならまず平気でしょう」

「それが回答ということでよろしいですね? ……では、地下都市スウンエアにはそのように報告を入れることにします。……ええと、あとは出動メンバーについてですが、どうします?」


 『メンバー』とは、私達のような集団の個人を指す言葉なのだそうだ。


「そこそこの戦力を投入したいところだわ。ねえシンク、あなたが差し支えなければ四人全員で行きたいのだけれど、大丈夫?」

「はい? つまりその、ここに予期せぬ機械兵の襲来があった場合、そうなるということですよね?」

「よく分かってるじゃねえか。つまりもへったくれもねえ、そういうことだ」


 シンクライダーは緑茶の入った透明容器を覗き込みながら、大袈裟ともとれるくらいに弱気な表情を見せた。その一方でメイルはすっかり気に入ったらしい緑茶を美味しそうに啜っていた。

 ロルは目をきょろきょろさせながらレインのほうを見ていた。


「あの、俺も、行くんですか?」

「そうよ。自信ないの?」

「い、いいえ、そういうことではないです。ただ、皆さんの足を引っ張るのではないかと思ったのです」


 ロルは事あるごとに私の反応を見て話す癖があった。気があるのは手に取るように分かるし不愉快でもなかったが、いい加減気づいて欲しいという願望もある。

 正直に言うと彼の同行には反対だった。

 特に戦場では、彼の存在は邪魔でしかない。


「足を引っ張るのはここに残っても変わらないでしょ。それに、あなたは自分で思っているよりも弱くはないわ。早く実戦に慣れてもらって私達を楽にして頂戴。そうですよね? レシュア様」

「あ、はい。レインさんが仰っているように、あなたがここにいるのはあなた自身が志願したからであることを思い出してください。ここは遊び場ではありません。命を落とすことを惜しいと感じているのでしたら素直に告白してください。相応の配置に変更しますので」


 シンクライダーに続いてロルも落ち込んでしまった。少し言い過ぎたかもしれない。でもなぜだか胸のつかえが下りて晴れやかな気分になった。

 レインを軽く睨みつけると視線を逸らされた。彼女は時々子供みたいな行動をとることがある。今回もそのうちの一つなのだろう。こちらの反応を楽しむ目的で吹っかけてきたに違いなかった。

 あのおどけた行為の裏側を冷静に分析する能力がいつの間にか身についていた。地上での稽古が能力開花に繋がったのかもしれない。そう思うと、あの切り傷もまんざら無駄でもない気がした。


「すみませんです。俺、お荷物にならないよう頑張ります」

「おうよ。なかなか度胸据わってるじゃねえか。本番もその意気で頼むぜ。現地に入ってから、やっぱりボクには無理です~、とか泣き言ほざくのは無しだからな」

「はいです。……でも、一つ気になることがあるんです」

「なんだ、言ってみろ」

「あの、メシアスさんのことなのですけど……」


 二度は引っかからないという姿勢で部屋に転がっている機械を観察するメイルを、ロルは挑発ともとれる顔つきで睨みつけていた。


「どうしてこの人だけなにもしないのですか? この人の役割は、一体なんなのですか?」


 それはメイルの前で一番言ってはいけない言葉だった。

 ロルの形相はまるでそのことを知っていたかのようにその対象へと送られる。

 メイルがアイテルを使えないことは既に知れ渡っていた。ロルの自信に満ちた表情は、そんな彼に対する疑念に負けるはずがないという強い意思の表れのように見えた。




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