5-3



 シンクライダーは楽しそうな足取りで流し台のあるほうに消えていった。

 レインは私とメイルに適当なところへ腰掛けるように言う。

 メイルが腰掛けた後、少し迷ったが彼の隣に座ることにした。


「さて、どこから話そうかしら。こういうことはヴェインのほうが得意なんだけれど、当分戻りそうにないから私の説明で分からなかったら彼に聞いて頂戴。まずは今の状況についてね。おおよそのことは昨日の王城放送で聞いたとおり、異星文明カウザは事実上の地球侵略を開始した。ゾルトランスはカウザに抵抗するべく策を練っていると思うけれど、私達が知る限りまだ行動を起こしていない。その理由を説明すると、一つは王城を守ることを第一としていること。もう一つは自分達の抵抗手段を相手に知らせないよう慎重に機会を探っているのだと思う。どんな兵器を隠し持っているのかまでは分からない。でも王城のどこかにアイテルを動力源とした破壊兵器が隠されているという噂もある。もしあるのなら早いとこカウザに使ってしまえばいいのにと思うでしょ? でもね、そこが問題でもあったりするの。機械兵はたくさん地上に降ってくるのにどこから降ってきているのか分からないのよ。敵の本拠地、おそらく空中要塞みたいなものだろうけれど、雲に隠れているのかもしれないし、空の色に紛れているのかもしれない。つまりね、居場所の特定ができないから攻撃もできないというわけ。ここまででなにか質問はある?」


 メイルが話を整理したいと頭を掻き毟っているとシンクライダーが緑茶と呼ばれる飲み物を片手に二つずつ覚束ない手つきで持ってきた。透明な器に入った薄緑色の液体は、さらさらと揺れながら熱そうな湯気を立てている。細長い管が刺さった容器はレイン専用のものだというので彼女に手渡した。


 全員に渡し終えたシンクライダーは誰よりも早く容器に口をつけた。手で持っていても分かる高温の液体を彼は息で冷ましながらおいしそうに啜っている。

 私も恐る恐る口に含んでみた。苦味の後にどことなく落ち着いた香りがする不思議な飲み物に感じた。喉に通しても全然苦しくはない。


「はーいせんせー。質問いいですかー」

「シンク君、珍しいわね。どうしたのかな?」

「あれ、意外に乗ってくれるんですね。やってみた甲斐がありました」

「あんたもそういうところは気にしたりするのね。感心したわ」

「それはどうも。では真面目に質問します。ゾルトランス軍は地上に降りてきた機械兵に今後一切関わらないつもりでしょうか?」

「結論から言うわ。そうよ。元老院は端から地下住民を守ろうなんて考えはないと思う。仮に防衛区画を作って軍兵を配備したとしても逆に不自然でしょう? ここにはなにかがありますって言っているようなものだし。とにかく自分達のことは自分達でどうにかするっていうのが連中の方針で、私達にとっても好都合というわけ」


 王城の話題になると自分のことを言われているような気がして肩身が狭くなる。

 こういう時はメイルを堂々と見られなくて少し歯痒い。


「俺も質問いいか?」

「はい、メイル君」

「昨日も言っていたが、あんたらはこの地下都市を防衛するんだろ。なんだか矛盾していないか? それならいっそのことここに隠れていたほうが戦いに出るより見つかりにくいんじゃないのか?」

「考えが甘いわね。それじゃ簡単にやられてしまう」

「なぜだ」

「だって、私達はまだ奴等のことほとんど知らないのよ。今のところ機械兵に関してはアイテル攻撃で破壊可能ということは分かっている。でも今は破壊することで手一杯。少し気を抜けばあっという間に終わりよ。こちら側でもさらなる増強を考えなければならないし敵側の情報だって手に入れたい。そのためには隠れているだけでは駄目なの。もちろん都市は守るわ。そのための準備もしている。解説はシンクがしてくれるわ」


 寝台に座っていたシンクライダーが得意げに咳払いをして注目を集めた。

 レインは一仕事終えたみたいに肩を降ろして透明な管を咥える。

 二人のなにげない行動に心なしか緊張を感じた。


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