5-2
居住区域からの迎えをレインが片手一つで応える。全員の入都を確認した住民はすぐに入り口を封鎖した。
「シンクは今日いるの?」
明らかに普通の住民とは異なる衣服を纏った男性が居住区域の片隅に建っている無骨な施設の扉を指差した。
「特殊医療室の中にいるって。せっかく来てあげたっていうのにこれだものね。あいつのことだからきっと、やあ、お待ちしておりましたよマイスウィートプリンセスレシュア~、とか空気読まない挨拶するわよ」
「レイン、うちのゲンマル爺さんはどうする?」
「そうね、今日からここに住んでもらうんだから手続きしなくちゃいけないわね。ヴェイン、代表に話つけといて」
ヴェインに手を引かれたお爺様が居住区域に消えていく後姿をメイルは寂しそうに見送っていた。なにか話しかけようか迷っていると、彼がこちらの顔を見て小さく笑った。本当に小さな笑みだった。
「仲間外れにされないといいんだが」
「メイルが守ってあげればいいよ」
「それができればな。でも俺はアイテルを使えないからここには住めないんだ」
出会ってから十一年が経過した彼は雰囲気こそ当時のままだったが、言葉遣いと容姿がすっかり大人に成長していた。身長も当時は同じくらいだったのが今は頭一個分伸びている。
時間は途切れることなく繋がっていたはずなのに目の前の彼はまるで別人だった。力強い頬骨と下顎のえらにかけての直角線がとても男らしく感じられて、固く閉じられた口元は油断すると吸い込まれそうになる。
見れば見るほど新しい発見があって視線を離すのがもったいないと思うほどだった。
「ちょっと、あなた達も行くのよ。ここの主に顔合わせておかないと話進まないんだから」
レインに呼ばれてすかさず彼を見つめると、眉をひそめた苦笑いが返ってきた。
私は彼が先を歩くのを待ってから少し後ろを早歩きで追いかけた。
「やあやあ待っていましたよ。おお! そこにいるのはワールドプリンセスエレガントレシュアさんではありませんか! ……そこの男子は? はあ、知らない顔ですね。新たに見つかった王族の方ですか? 違う? そうですか、これはこれはどうもはじめまして。僕はここで医者のようなものをやりながら様々な分野の研究をしております『シンクライダー』というならず者です。どうかお見知り置きください」
特殊医療室と呼ばれる施設の内部には見たこともない機械や球体状の蛍光器や、床に垂れ下がった無数の線状の物体が乱雑に置かれていた。唯一分かるものといえば、見るからに寝心地の悪そうな寝台があることくらいだろう。
シンクライダーと名乗った医者は黒い縮れ毛を肩まで垂らした彫りの深い顔立ちの男性だった。メイルより大分年上に見えるがそれでも若い部類に入ると思う。笑った時にくっきりと入る笑窪が印象的だった。
「彼はメイル・メシアス。今日からレシュアを専属で護衛することになった一般人よ。戦闘以外は彼の管理下にあるから余計なちょっかいは出さないこと、いいわね。あと彼はアイテル使えないから。王族関係者の特権とか適当な感じで住民登録もお願いしたいわ。可能よね?」
「ちょ、ちょっと待った」
「なによ」
「俺が? マーマ……、レシュアの護衛? 聞いてないぞ」
「あれ? 話してなかったっけ。まあそういうことだから。もちろん異論はないわよね?」
「いや、ここに残してくれるんならこっちとしてはありがたいが状況が全く掴めない。分かるように説明してくれないか」
私も知らなかったことなので彼に倣い首を縦に振った。
「随分と立て込んだ事情がありそうですね。それならばお茶を淹れてきましょう。緑茶になりますが皆さん平気ですよね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます