5-1 レシュアside 三歩先の暗然 / brxu vhfxulwb



『……死んで自分が救われると思っているならそうしなさい。あなたのために人生を捧げ、涙を流し、傷ついた人達の費やした時間を溝に捨てる勇気があるなら私は止めないわ。……あなたはあなたなのだから。後悔することは決して悪いことじゃない。こんな時だからこそはっきり言葉にしてくれて嬉しかったわ。ありがとうね。じゃあ、私達先に行くから……』



 本当に死のうと思っていた。デイミロアスとロッカリーザ、そしてゼメロムの住民を死なせてしまった罪を背負って生きていくなんて私には到底できそうにない。レイン・リリーの返答に胸を締めつけられてもなお活路を見出せなかった惨めな心は、契機にすら見放されて行く当てもない道を彷徨っていた。


 地下都市ゼメロムを破壊した後、別れることになった二人は休憩する場所について話し合っていたのだが、私はそのやり取りを見てどういうわけか声をかけていた。ここの近くに地上の人が住んでいるかもしれないから、そこで休ませてもらったらどうだろうかと。

 歩みを止めて振り向いた二人は満面の笑みを浮かべていた。


 案の定、道案内を頼まれてゆっくり歩を進めていると『彼』に会えるかもしれないという小さな喜びがまだ心に残っていたことに気づいた。

 どちらかの足を踏み出せば自然と時間は経過していく。

 そして、後ろを歩く二人はこちらの意思に任せてついてきてくれる。

 この時にふと、人は考えなくても勝手に生きてしまうことに気づいた。



 ……後悔することは決して悪いことじゃない。でも立ち止まってしまってはいけない。理由がないならとにかく歩いてみればいい……。



 レインが本当に言いたかった言葉が、彼女の全身に溢れるアイテルに溶け込んで私の背中に突き刺さった。

 私は彼に会いたい。彼の近くにいたい。それだけを理由に生きてうまくいかなかったらその時に考え直せばいい。そう思い立ったのだった。


 のちにレインは「死なせてしまった人達に対する思いは生きている人に返せばいい」と教えてくれた。そのとおりだと思った。今の自分にできることを探すだけでも誰かのためになるのかもしれない。そう感じたのだ。




「レシュアの姫ちゃーん。乗り心地はどうよー」

「少し怖いですけどー、平気ですー」


 ヴェインが抱える約六メートルの梯子の上に固定された椅子。私はそこに座りながら彼らとリムスロットに向けて移動していた。メイルの家から三百キロメートル近い距離があるのでアイテルによる『飛行』が必要だということらしかった。

 レインはメイルを背負い、ゲンマルお爺様はさすが達人というだけあって軽々とついてくる。私は周囲のアイテルを無効にしてしまうので有効範囲である『五メートル』を離さないとヴェインには運べなかった。


 地下都市リムスロットに到着したのは正午を少し過ぎた頃だった。

 巨大な岩山の麓に配置されていることを除けば、入り口も内部も地下都市ゼメロムとほとんど変わらない光景が広がっている。


 二日前のことを思い出して少し気が滅入った。

 みんなの前では真剣な表情を装えばなんとかごまかせるはず。そう思って実際にやってみたらうまくいったのでひとまず胸をなでおろした。


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