2-5
「今から五時間後に爆破を決行します。こちらの代表はおられますか?」
奥のほうからすっと手が挙がる。老齢の女性の手だった。
「説明する必要はないかと思いますが、地下都市には設備の全てを破壊するための爆破装置が備えられています。女王への裏切りがあった場合の処置をするためです。……それでは代表、起動の助力をいただきたいのですが、よろしいですか?」
こくりと頷く代表を見てやっぱりそうだったのかと悔しがる住民がいた。どうやら噂として以前から存在していたものらしかった。
「今後の判断については各自にお任せいたします。ここからですと最も近い都市『リムスロット』に受け入れてもらうことが得策となるでしょう。ただし行き着くまでの安全は保障しかねます。最後になりますが、ご遺体のことについても言わせてください。今後機械兵に回収されるような事態が発生しますと我々にとって様々な悪影響が出ると予想されます。強制はいたしませんが移動は遠慮していただくようお願いします。以上で解散です。ご苦労様でした」
絶望に頭を抱える者、動かなくなった住民のもとに向かう者、さめざめと泣き崩れる者、それを黙って見ている自分。これはなんなんだと叫びたくなった。
私はなぜここに立っているのか。
どうして自分ではなくて知らない人が死んでいるのか。
彼らはなにを思ってこの世を去っていったのか。
希望や夢はあったのだろうか。
悔しかっただろうか。痛かっただろうか……
「今更こんなことを言って慰めにはならないだろうけれど、あまり自分を責めないほうがいい。城からの距離を考えてもここは落ちても仕方がなかった。現に私達が来る前に奴等はここを徘徊していたのだから」
仮面をつけた長い黒髪の女性はこちらを向いて喋っていた。さっきまで見えていた仮面の模様が今はなくなって真っ白になっている。
私は話したくなかった。黙って睨み続けていると相手はやれやれといった手振りをしてまた喋り出した。
「そうね。まだ自己紹介していなかったものね。私はレイン・リリー。レインでいいわ。それと彼はヴェイン」
「おっす、可愛いお姫様。今日は随分とやんちゃあそばされましたな。想像以上のおてんばっぷりで、なんつうかヤバイって感じだ。とりあえずよろしくな」
ヴェインという名の男の人が手を差し出して薄ら笑いを浮かべている。見た目は浅黒い肌の色を除けばどこにでもいそうな普通の若い男性の顔だった。
どことなく鋭い目つきをしているようだが、全体的にすっきりとした顔立ちなので男性的な勇ましさはあまり感じられない。格好は軍兵のダクトスーツによく似た形状のもので清潔感はある。こちらは上下とも紺色の服を着用していた。
「おう、握手、しようや」
したくなかった。本能が不潔な人だと判断したからだ。
「あなた達は何者なんですか。なぜ私のことを知っているのですか?」
ここにきて余計な質問をしてしまう。
後悔が影響したのか、視界が少し揺らいだ。
「ということはなにも聞いていないということね。それは困ったわ。簡単に言ってしまっていいのかしら。どう思う? ヴェイン」
「話しちまっていいんじゃないのか。どのみち分かっちまうことだし、このお嬢さんはきっとそういう類のこと教えるまで退かねえだろうぜ」
「そうよね。まあ、とにかくここの処理をはじめるまでしばらく時間もあることだし、休憩しながらゆっくり話すことにしましょう。それでいい?」
吐き気がした。
この二人を見ていると別の世界に飛ばされたような感覚に襲われる。
そのためか、めまいが止まらなかった。
ゆらゆらと肩が動き、視界がどんどん遠ざかっていく。
……。
身を屈めて胃の中の物を出した。
流れ落ちる唾液と吐き出された液体を眺めながら、安易な決断であったことを激しく後悔する。
彼らにだけはこんな姿を見せたくなかったと……。
(ちょっと大丈夫!? ヴェイン、医療室に運ぶわよ!)
(ったく、世話の焼ける姫だなあ。これだからガキってやつは……)
このまま、死んでしまえばよかった。
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