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 約一時間後、六体の機械は二人の鮮やかな攻撃で全て破壊された。仮面の女性と痩せ型の背の高い男性は増援が来るのを待っていたが、来る気配がなかったので避難した住民を一箇所に集めて事態の説明をはじめた。

 心が抜け切った私はその場の様子をぼんやり眺めていた。すると仮面の女性がいらいらした表情で寄ってきて腕を力任せに引っ張り、半ば引きずられるように合流させられた。



 どういうわけなのだろう、私は彼女達の隣で住民達を上から覗き込んでいる。立つ位置が明らかにおかしかった。

 ざわめく住民達の視線が自分に集中している。理由を考えていると一人の高齢らしき女性がぽつりと呟くのが聞こえた。


「あの方、王女様じゃないの?」


 地下都市に住む人にも情報が与えられることを初めて知った。顔が知られているということは私の居場所を城に報告する者が出てきてもおかしくないということだ。

 考える必要はもうないはずなのにこれからどうすればいいのかと不安な気持ちになる。冷静な精神の置き場が脳のどこにあるのかますます分からなくなっていった。

 そんな中、仮面の女性は真剣に説明を続ける。


「……というわけで、残念なことに二十七名の犠牲者が生まれてしまいました。ご家族の皆様には謹んでお悔やみ申し上げます。まず、この都市を狙ってきた機械についてですが、詳細は王城からの正式な発表が近々あると思います。本来ですと今ここで公表することは許されないことなのですが、今回のような事態に巻き込まれた皆様方はおそらく納得されないでしょうから特別にお話しします。……あれは、『異星文明』が地球に送り込んできた機械兵器です。つまり侵略してきたのです」


 住民達がどっと混乱の声を上げた。同じように私も頭が真っ白になった。

 彼女の言葉を鵜呑みにしてはいなかったが、確かにあれは地球で作られたものではない。

 もし侵略が事実だとしたら迷うことなく人間を襲ったことにも辻褄が合う。しかしあまりにも常軌を逸していた。

 異星文明。そんなものが本当に存在しているのかと。


「あと既にお分かりかと思いますが、こちらにおられるのはゾルトランス女王陛下、妃殿下のお一人、レシュア様です。この都市に来られた理由についてですが、単刀直入に申しますと脱走されてきました。異星文明との和解を城の誰よりも強く訴えておられたのがレシュア様だったのです」


 小さく鼻から息が出てしまった。おそらくなにも聞いていなかったのは私だけなのだろう。


「元老院はレシュア様のお考えを反逆とみなし処刑しようとしたのです。この意味をお分かりになれますでしょうか。つまり彼ら元老院は女王陛下のいないことをよいことに彼女の尊き意思を無視し、この機兵団と交戦することを決めたのです」


 住民達はさらに大きな声を上げた。恐怖の感情から沸き起こる怒りみたいなものを元老院に吐き捨てる者もいた。


「これらの話を踏まえてご理解いただきたいことが二点あります。まず一つめは、レシュア様はあなた方の味方であるということです。もしこの中にゾルトランスの考えを支持する者がおりましたら直ちに退去願います!」


 ざっと百人はいるであろう住民達の集合から離れる者は一人もいなかった。


「次に二つ目ですが、機械兵は現在我々が知っているだけでもまだ相当な数が控えていると思います。この都市の存在も知られてしまったかもしれません。仮にあなた方がここを離れたとしても、このままの状態では奴等の拠点にされてしまうかもしれません。そこで提案ですが、ここを全て破壊しようと思っています」


 聴衆の声が止まる。当然の反応であると同時にやむを得ない判断だと思った。

 いくらアイテルを使えても実際に二十七人が命を落としてしまったのだ。立て篭もって襲撃を迎え撃つにしても人員と力量の均衡を保てないだろうし、なにより時間が不足している。若干腑に落ちないところを認めつつも彼らへの提案は結果的に理に適った処置だろう。


 気がつくと冷静に分析している自分がいて無性に腹立たしくなった。関わりのない人間ならどうなっても構わない、そんなことをほんのわずかにも感じたことを激しく後悔した。早く自決で償ってしまいたい。


 全身の痛みが強くなっていく。特に酷いのは両方の手。切り傷だらけになったそこは大きく膨れ上がっていて、気持ちに逆らうように活発な脈を打っていた。


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