2-1 レシュアside 雨垂れに囚われ哀れ / a miss inverted !



 生まれて初めて人が死ぬところを見た。

 腹から血を流し、口から血を吐き、悔しさを絶叫に変えて泣いていた。



 ……早くここから離れろ。自分達に構うな。レシュア様、ああレシュア様……。



 そんな言葉を聞いた。意味を理解するよりも先に罪悪感が思考を支配して、その場を離れることができなかった……



 私達が休憩をやめて先を進みはじめたすぐ後にそれは飛来してきた。

 体長は二メートル程で肩や頭、足の爪先は四角い形状をした人型の機械のようなもの。見た目は痩せ型でひ弱な印象だったが、歩く時のごつごつとした身のこなしは人間の筋力を超えた力量を感じさせた。


 デイミロアスとロッカリーザは素早く私の前に立った。未知の動体への対応なのでそうするより他に選択肢がなかったのだと思われる。

 二人は私の秘密の能力をある程度認識していた。近くで戦うことがどれほど危険な行為なのかも十分すぎるくらいに。


 機械の両腕には人間と同じ形の指がついており、その先端からは黒い液体が垂れていた。

 周囲が暗くてもそれがなにかを認識する思考は維持していた。血生臭い空気が嗅覚を否応なしに刺激していたからだ。

 そして、機械が次に起こす行動もなんとなく予想できていた。


 デイミロアスとロッカリーザは同時に飛びかかった。私は彼らがアイテルを制御できるように距離をとる。

 実際彼らはアイテルによる攻撃を当てることができた。しかし機械の動きを止めることはできなかった。

 見たこともない速度で腕を振り回し見たこともない速度の足運びで背後を取る。そして、謎の機械は彼らの一瞬の油断をついて同時に腹をえぐった。



 二人は私に向かって叫んだ。

 だから、見捨てることなんてできなかった。



 相手の動きは把握した。あとは『00』が上手く噛み合うかどうかにかかっている。

 ためらっている暇はない。

 靴を脱ぎスカートの裾から下半分を破り捨てる。

 悲しみをわずかな怒りで押さえつけ、神経を爪先に集中させた……。


 軽く踏み込んで、まだ息がある二人を抱えたモノの先に飛んだ。

 気づかれる前に相手の肩へ拳を振り下ろす。

 だが返ってきたのは半身の痺れを伴う痛みだけだった。

 新たな攻撃対象を認めた機械は三歩後ろに下がり、しな垂れた二人を上下に振って落とした。


 極限まで集中を保ちながら胸の苦しさを奥歯で押さえつける。

 両手を前方にかざして相手の行動を待った。

 突進攻撃をしてくれば『00』で勝てる。

 理由を考えている余裕はない。

 これはただのモノなのだと何度も自分に言い聞かせる。


 猛烈な速度で近づいてきた。

 身構えた両手は空気の流れに任せて機械の右腕を掴み取る。そして相手の頭上に飛び上がり、全身を翻して着地と同時に腕を捻り切った。


 なおも抵抗をやめないのでもう片方の腕も同じように捻る。

 機械の暴れ方が動揺しているように見えて頭の中でなにかがかすめたが、その時にはもう自分を止められなくなっていた。



 人のカタチに見えなくなるまで全てを千切り落とし、動きを止める。

 処理を終えて駆け寄ってみたが、二人の男女も動かなくなっていた。



 力を解いたと同時に押さえつけていた感情が口から洩れてくる。


 城からの脱出に護衛はいらないとはっきり言っておけばこんなことにはならなかった。ルウスおじさまの真剣な申し出を断れないとその場の考えで受け入れてしまったがために、私は本当に生きるべき人間を二人も殺してしまったのだ。


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