第28話

 リヴィッドは結局、その胸騒ぎや不安、あるいは森の奥で鉄を鍛え続ける少女について一切を口にせず――口にしたところで、自分が思い付けるのと同じ言葉であしらわれるだけだとわかっていたのだ――、漫然と隊商に戻らざるを得なかった。

 そうして再び隊商で忙しなく駆け回る日々が始まった。

 ただ、相変わらず隊員たちから怒号を浴びせられ続けたリヴィッドだが、それらには不思議と以前のような憤りを感じなくなっていた。もちろん理不尽なことには不服を抱くが、それもまた以前までとはどこか違うのだ。

 その理由は、わかりかけるようで、掴み切れないままである。ぞわぞわと、高揚感にも似たなんらかの確信や、発見が目の前にあるはずだという気持ちだけが湧いていた。

 それは同時に、やはりフレデリカに対するものとは正反対にも思える。そこに自己嫌悪のような理不尽を感じるが……かといってどちらの感情も掴み切れず、どうしようもない無力さも抱いた。

 頭の中はますます煩雑として、混乱し、自分でも制御するのが難しくなっていた。気になることが、考えてしまうことが、思い浮かんでくることが多すぎる。隊員のことや、フレデリカのことはもちろん、自分の中を渦巻く感情も、赤い森も――

 そして、サヤのこともだ。

 狂気的な無垢の少女は今、何をしているのか。そしてこれから先、何をするのか。彼女はずっと鎚を振るい続けるのか。それを思うと同情とも恐怖とも不安とも……どれともつかない、どれでもある感情が湧いてきた。

(人を守る剣……)

 彼女にもう一度会いたいという思いは、間違いなく抱いていた。

 ただ、それを実行することはどうしてもできなかった。

 もう一度会った時、自分の中で何が起きるのか――以前に口走ってしまったことへの罪悪感や、また繰り返してしまうような恐怖もあったし、それでも言葉自体は間違っていないという、意固地なプライドもあった。

 混沌とした泥沼が沸騰するような、どろどろした葛藤の中――

 そうしているうちに、赤い森の町を発つ日がやってきた。

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