二章

第7話

■2

 隊長であるマクファデンという男は、一言で言えばとても商人には見えない。歳は五十だというが、その年齢に見えることもない。

 厳ついというよりは鋭い顔立ちで、オールバックにした黒髪の前髪が一房だけ垂れている。

 鎧こそ着込んでいないが、黒にも近い深緑色の分厚い服は、珍しくも合成繊維で作られているらしく、戦闘服そのものに見える。たいていはそこに、いくつかの必要な小物を収納できるポケットの付いたベルトを巻くが、武器が仕込まれているようにしか思えない。これでなぜ商人ができているのかと、リヴィッドは見るたび疑問を抱いていた。

 声も低く、鋭く、相手を威圧するものだ。そしてその声が告げてくる。

「連中は元より、盗賊まがいの連中だったということだ」

 旅芸人の一団に逃げ去られた後、説明を求めたリヴィッドに対し、マクファデンは表情を動かすこともなかった。

 隊の先頭である一番車は、しかしリヴィッドが日頃乗っている後方のものとなんら変わりない。木製の荷台に、今は隊長がひとりだけで私物を背にして座り、リヴィッドと対峙していた。

「連中の手口は単純だ。隊商に同行を申し込み、隊員に擦り寄ることで私財や商材を盗み出す。他の隊員も何人かは同じように接触されている。被害はお前だけだがな」

「……どうして教えなかった? そんな連中だってわかってたなら」

 相手が隊長であるため、身を乗り出して掴みかかるようなことはしなかった。が、それくらいの憤懣の気配を発しながら、リヴィッドは目の前の男に糾弾の言葉を吐いた。

 しかし彼は、どうとでもない様子で返してくる。

「このことは隊員の誰にも伝えていない。しかし薄っすらとでも感付いていないのは、お前だけだった。ただそれだけのことだ」

 さらに、リヴィッドが食い下がろうとするのに先んじて続ける。

「そもそも誰にも伝えなかったのは、連中が本当に旅芸人一座としての側面も持っており、下手なことをすればよからぬ噂を立てられてしまうためだ。今ですら自分の制御がおぼつかないお前に教えて、それを相手に気取られないよう自衛することができたか?」

 リヴィッドはそれに抗議の勢いも封じられた。前のめりになっていた身体を引き、口惜しく胸中で舌打ちすると、せめてもの反論として「俺が信用できないってことか」と犬歯を見せたが、

「年下の女に鼻を明かされなくなってから言うべきだな」

 隊長はそうやって、淡々と言い返してきただけだった。

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