春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ2

「だから幼馴染といっても、私は忠家君のことをよく知らないの。まして恋人だなんてとんでもない」


忠家との関係性を問うてきた後輩に、仲子はそう言った。


大学二年生になった仲子達には、後輩ができた。

大学二年生とはいっても、2月に突入しているため春休みがあけると、三年生になる。

この後輩とも、もうすぐ一年の付き合いになるのか、と仲子はしみじみと横にいる後輩を眺めた。


仲子達の入っているサークルはよくあるオールラウンドサークルである。

飲み会はもちろん、バスケでもテニスでもサッカーでもボーリングでもとにかく何でもするサークルだ。

仲子の趣味ではなく、忠家に連れてこられただけだったが、サークルを抜ける理由もないため飲み会や、気が向けばイベントに参加していた。

忠家はサークルの中心でいつも騒いでいたため、仲子は大体1人でいるか、同級生の女生徒と話をぽつりぽつりとしていたが、二年生になってからはいつもこの後輩と行動をしていた。


後輩、あきらはオールラウンドサークルでは珍しく温和な性格の男の子だった。見た目も華奢で、仲子は男友達というより女友達として話している気になっている。

章も読書や囲碁が好きだという共通の趣味もあり、二人はすぐに仲良くなった。

飲み会では端に二人で座ってまったりおしゃべりをするというのが定番になってきている。

しかし、必ずといっていいほど忠家が乱入し、仲子をひっぱっていこうとし、その度に仲子に断られているというおきまりのやりとりをしているため、ついに章が「2人は恋人なのですか?」という疑問を仲子に投げかけたのだった。


「仲子さんは、忠家さんのこと幼馴染だって思ってるみたいですけど、忠家さんは違うんじゃないですか?」

「つまり?」

「忠家さんは仲子さんのことが好きだから、ああやって僕達に割って入ってるんじゃないでしょうか」

「それはないと思うな。さっきも言ったとおり、忠家君は彼女ができる度に私に報告してくるからね。私に好意を持っているなら、そんなことはしないと思うよ。いちいち言うってことは、祝福して欲しいのだと思ってるんだけど、何でかいっつも腹をたてられるんだよねぇ」


それって嫉妬してほしくて彼女を見せびらかせてるんじゃないですか、という章の思いは、仲子によってかき消された。


「忠家君、今はフリーだけど、ほらあの一年生の子とそろそろくっつくんじゃないかなぁって思ってるんだ。ただ、その時にまた報告されたらなんて返せばいいのかわからなくて…」


仲子が指差した先には、先ほど仲子によって退散した忠家と腕を絡ませている一年生の女の子がいた。

垂れ目と口元の泣き黒子が印象的な子犬のように愛らしい雰囲気の女の子で、確か秋の文化祭ではミスコンの2位を獲得していた。

彼女も彼氏が途切れないことで有名だったが、ようやくフリーになった忠家にここぞとばかりにアピールをしているのだろう。


2月の、しかも天体観測中だというのに薄着をしており、寒さを口実にくっつく女の子に対して、忠家も好きにさせている。


「オリオン、リゲル…あそこに一等輝いているのはシリウスかな。星も囲碁も、可能性は無限だけれど、考えればきちんと答えがついてくるのに、忠家君は何がしたいのかいくら考えてもさっぱりわからないなぁ…」


仲子は望遠鏡を覗きこんだ後、星空を見上げながらばふりと仰向けに寝そべった。

後ろから天体観測そっちのけで忠家と一年生に対して騒いでいる野次が聞こえる。


「仲子さん、今は夜ですから直接寝そべったら寒いんじゃないですか?僕、車から毛布取ってきますけど」

「うーん、ちょっと寒いけど、お酒も飲んでるしむしろ心地よい冷たさだよ。見上げると満天の星空が広がってて絶景。ほら章もやってみなよ」


普通の女性だったら洋服が汚れること気にするんじゃないかと章は思ったが、仲子に言われるがままとりあえず仰向けに寝そべってみる。


「あ、意外といいですね。星は見えるし、草が天然のクッションとなって気持ちいい」

「でしょう。欲を言えば、枕が欲しいなぁ」

「じゃあ腕枕してやるよ、仲子。一晩中抱いてやる」

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