百人一首 第六十七首 雑の歌
相田 渚
春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ
藤原
しかし、それだけの年月を共に行動していても、周防
忠家は仲子とは何もかもが正反対だ。
仲子は大学生になっても、髪を染めることも、外見を派手に着飾ることもせず、高校生の時とかわらない、地味な装いをしている。
黒々とした胸まであるストレートの髪、ろくに外に出ないため日焼けをしていない白い肌、膝下のフレアスカートが常備で、古めかしいその名の印象どおり、現代日本から失われつつある大和撫子を彷彿とさせる。
忠家は大学生になると同時に、髪を明るい茶髪に染め、流行のゆるふわパーマをかけて気取った香水を纏わせた。
見た目だけではなく、性格も違う。
仲子は人と外で遊ぶよりも、1人で読書をすることが好きだが、忠家はいつも人に囲まれて騒いでいる。
現に入学早々に入ったサークルでは一年生ながらに輪の中心となって、いつも飲み会やイベントでは彼の周りで笑いが絶えなかった。
これだけ正反対な二人が、いくら家が隣同士で昔からの付き合いだとはいっても、気が合うかといわれれば、もちろん合うはずもなかった。
仲子はインドアではあるが、自分の意思をきちんと相手に伝える人間のため、彼との衝突はしょっちゅうであった。
例えば、幼稚園の時。
絵本を読んでいる仲子に忠家が走りよってきた。
「そんなことしてないで、そといこうぜ!オレのとっておきのひみつちき教えてやるよ!」
「別にいいよ」
「このオレがにせっかくひみつちき教えてあげるっていってるのに!いいからこいってば!なんでだよなかこ!」
「それってきっと園内に生えているさくらんぼの木の裏の茂みでしょ。門と茂みの間に少し隙間あるもんね。もう知ってるから必要ないよ。それと、ただいえくん、ひみつちきじゃなくて秘密基地だよ」
仲子としては、忠家に問われたから丁寧に行く必要がない理由を教えてあげただけのつもりだったが、忠家は何故か泣き出してしまい、かけつけた保育士に「もう少し優しく言おうね」と怒られてしまった。
また小学生の時。
小学校に入ってからも常に教室の中心の輪であった忠家は、1人昼休憩に教室で詰碁を楽しんでいる仲子に声をかけた。
「仲子、お前もペーパー野球やろうぜ!今から皆で始めるんだけど、お前は俺のチームな!」
「せっかくのお誘いだけど、遠慮しておくわ」
「教室でするペーパー野球だからお前が嫌いな外に行くわけじゃねえのになんでだよ!そんなのオセロのどこがおもしろいんだ!」
「オセロじゃなくて囲碁よ。今いいところだから、辞めたくないの。別に私がいなくても人数足りるでしょう?」
仲子がそう言うと、忠家が反論する前にクラスメイト達が「別にやりたがってないやつ誘わなくてもいいじゃん。藤原、もしかして周防のこと好きなのか?」とからかい始めた。忠家はすぐさま否定し、その場は流れたが、その後も懲りずに何度も忠家は仲子を誘い続け、その度に仲子は断り続けた。
中学生の時も高校生の時も、なぜだかずっと同じクラスだった二人は事あるごとに同じようなやりとりを続けた。
別に忠家のことが嫌いなのではなく、単に性格が合わないだけだ。
仲子が一人で何かをしたいのに対して、いつも忠家はたくさんの人の輪に仲子を連れ出そうとする。
そんな幼馴染の行動が理解できなかった。
大学のサークルも忠家に無理やり入れられたようなものだ。
連れ出した本人はあいかわらず輪の中心にいたが、飲み会では仲子はもっぱら端の席で淡々とお酒を飲んでいた。
理解できない行動はそれだけではない。
大学生になってからというもの、忠家は彼女ができる度になぜだか見せびらかしてくるのだ。
モテる割りに、モテるからこそかもしれないが、彼女と続く期間も短いようでこの一年間でかわいい系、癒し系、お姉さま系と様々なタイプの女性と顔合わせをした。
忠家も彼女も得意気な顔でどうだと言わんばかりに現れるので、その度に「おめでとう」と祝福しているのだが、いつも忠家は不服そうな顔をして一ヶ月もすると別れている。
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