第9話 対立するショウとジョー。リホ、君は何者?

 ──シルバーワールド


「それって……私は入れ替わってる……ってこと……?」

「そう。君は今、アナザーと入れ替わっている。その身体は君のものではないんだ」


 整理するとこうだ。

 リホはパープルワールド、豊臣が支配するオオサカ世界の住人で、居酒屋で知り合ったジョーにパラレルチェンジを発動され(指パチン)、レッドワールドのアナザーと入れ替わった。そこで仲良しのショウ(アナザー)たちとバーアンカーで待ち合わせしていたが、うっかり店の奥に設置されていたトリップマシンを操作して、シルバーワールドにトリップしてしまった。


「はあ?なんだそれ。それって、規定違反に事故じゃん。リスク委員会ものじゃん」

 ショウが突っかかる。ショウはジョーより五つも年下だが、PTAでは先輩だ。それもあって、敬語も使ってないし、なんだかんだとジョーを指導する側に立ちたがるところがある。


「ジョーはなんでそんなことしたのさ。トリップマシン使わずにお客さんをパラレルワールドに連れて行くのは規定違反だろ」

「僕はチェンジさせただけだ。トリップさせたわけじゃない。そういう規定はないだろ」


 トリッパーは大抵、自分が触れている人を一緒にトリップさせることができる。しかしPTAではそれを禁止していた。お客様を連れて行くときはトリップマシンを使う決まりだ。トリッパーが直接自分の力でお客様をトリップさせるのは、緊急事態が起きたときだけなのだ。


「いやいや、それは屁理屈でしょ。そもそもジョーと同じ能力持っている人なんていないんだからさ。ジョーの能力にあった規定なんて存在しないでしょ。それに規定なくても常識として分かるよね。お客様をチェンジさせちゃうなんてさ、あり得ないよね」

 睨むショウに、負けじとジョーも睨み返した。

「僕はいまのPTAのツアーに不満を持ってる。そもそも、今の自分と違った人生を歩んでるアナザーをこっそり見て満足して帰るなんて、しかも今より成功してないアナザーしか見せてないって、それって違うんじゃないか。リホちゃんみたいに、今とは違う人生を歩みたい人に、入れ替わった人生を体験させてあげられたらって思わないか。俺たちの能力ってそのためにあるんじゃないかな」

「だから、それは屁理屈だって。人生は変えられないんだよ。特にチェンジして人生を変えるのはダメだ。絶対良くない」

「変えられるよ。チェンジした瞬間に別の人生だ。簡単だよ」

「だから、それがダメなんだって」


 ショウとジョーは全く噛み合わない。だんだんとテンションが上がり、今にもつかみかかりそうな雰囲気になってしまった。たまらずリホが割り込んだ。


「ちょ、ちょっと、喧嘩やめましょ。うち、楽しいですよ? 憧れのマドンナとお友達になって、憧れの受付嬢になって、なんも悪いことないですやん」

「それは入れ替わったアナザーが作ってきた人生だろ。君のじゃない」


 ショウの言葉に、リホはハッとした。アナザー。いまアナザーはどうしてるんやろ。入れ替わってしまったアナザーのことなんて、考えもせんかった。


「入れ替わったアナザーは、君の人生を楽しんでいると思うかい?」

「それは……」


 しばらくの沈黙の間、ショウは怖い顔をして誰とも目を合わせなかった。そして、ふう、と息を吐いて立ち上がった。

「ジョー、リホちゃんはそもそも客じゃないんだろ。問題になる前に、リホちゃんを元に戻せよ」

 そう言って、ジョーを睨み、ドアに向かって歩き出した。

「聞きたいことはまだあるけど、俺はもう帰りますよ。PTA創立一周年記念日に向けた、団体ツアー立ち上げの準備がありますから」

 カラランとドアを開け、ショウは店を出て行った。


「ジョー」

 リホは、ショウの出て行ったドアを悔しそうに見ているジョーに、遠慮がちに話しかけた。

「あの……戻らへん? レッドワールド、やったっけ、さっきまでいた世界に。きっと、メグミさんたち心配してると思うんよ」

「あ、ああ……」

「うち、楽しいよ。ジョーが言ってることよく分かる。うち、元の世界で家を継ぐのは、ほんま嫌やの。だから、ジョーがこっちに連れてきてくれて、ほんまうれしい。でも……うちは入れ替わってるんやね。うちのアナザーが、うちと同じように楽しいのかどうか……」

 リホが口ごもったのを見て、ジョーは苦笑いをした。

「だよな。入れ替わった両方が幸せじゃないと意味ないよね。ちょっと待ってくれ。いま確認するから」

「確認?」

「言ったろ。僕はマインダーだって。入れ替わったパープルワールドには僕のアナザーがいて、リホちゃんのアナザーと一緒に行動してるんだ。だから、今から確認する」


 ジョーは静かに目をつぶった。いま、ジョーはパープルワールドの自分のアナザーと通信しているのだ。

 ジョーはしばらくすると、険しい顔で目を開けた。


「リホちゃん……君はいったい何者なんだ」







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