第2話
「どうだい婆さん、
「いないね。弱ったねえ。天狗にでも
「馬鹿言うんじゃねえよ。文明開化のご時世に。江戸の昔じゃあるまいし」
二人にとって最初の主人だった、
店は
「心配だねえ。何しろ
節くれ立った両手を揉み合わせながらカヨ婆が呟いた。
「こないだなんか、急に、『死んだらどうなるの』なんて、私に聞いてきてねえ」
「ほう、それで何て答えたんだよ」
「
「金にうるさい性根が出たな婆さん。坊はきっと、死んだハチがどうなるのかを知りたかったんだぜ」
「やっぱりそうだよねえ……」
力なく項垂れたカヨ婆の前で、同じく幸吉の表情も浮かない。下の者からは赤鬼と呼ばれるほどの
「なんて言ってる俺も、そうだと気が付いたのは後からでよ。同じように聞かれたんだ、坊に。『三途の川を渡るとどうなるの』。ありゃあ婆さんの後だったんだな」
「何て答えたんだい」
「
「そうすると、誠一の奴が私の所に来たのは、幸吉の後だったというわけか」
言いながら、
慌てて頭を下げる幸吉とカヨ婆に、江戸小紋の
「私は誠一に、『閻魔様の裁きを受けたハチはどうなるの』と聞かれた」
「それで、旦那様は、坊に何てお答えになったんで?」
「どうなるかはお前が決めろ、と言っておいた」
「「は?」」
揃って目を丸くした使用人二人に、主人は平然と言ってのける。
「閻魔の裁きは畜生のためのものではないことをまず説いて、だがまあ好きにしろと言ったのだ」
「好きにしろってそんな。……ああ、坊っちゃん、さぞ戸惑ったでしょうに」
「きょとんとしていたな。だからもう少し分かり易く、お前が拾ってきたお前の犬のことだから、死んだらどうなるかもお前が決めてやれと言ってやった」
ああもう、とカヨ婆は天井を仰ぎ、幸吉は眉間を摘んで俯いた。誠吾は懐手のまま庭を見やる。
「私も
「へ? 旦那様、坊がどこにいるか、お心当たりが?」
「似たようなことなら、私にも覚えがあるからな」
「俺が行きますから。坊はどこにいるんです」
「いい。家長の出番だ。屋敷の増築のこととも関わるしな」
「増築とですかい?」
「
忘れっぽくていけない、と自嘲する誠吾の視線の先には、枝を交わす庭木の向こうに蔵の瓦屋根が突き出ている。一帯は小さな林。稲荷の
「まあ大事無い。お前たちは寺へ向かう支度をしておけ」
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