見上げれば満天の星

夕辺歩

第1話

 彼岸花が咲く庭の隅から、黒土の下に埋めたはずの子犬の亡骸なきがらが消えていた。

 誠一せいいちは我が目を疑った。


「ハチ……?」


 掘っても掘っても駄目だった。出てくるのはミミズや知らない虫ばかり。

 その場にへたり込んで、穴を見つめたまま、誠一はしばらく動けなかった。

 土に埋めた生き物は半年あまりで跡形もなく消えてしまうものなのだろうか。

 肉は腐っても骨は残り、いつかは化石になるのだろうと誠一は思い込んでいた。

 思いがけない、大好きだった弟分との二度目の別れ。

 こらえ切れずに秋の空を仰いだ。鱗雲が滲んで見えた。


「ハチ」


 白い毛並を、桃色の舌を、つぶらな瞳を、誠一は思い出した。

 共に歩いた川縁かわべりを、得意の遠吠えを、抱き上げたときの温もりを思い出した。

 ひどくむなしくなった。

 何をどれだけ思い出しても埋めようがない。

 世界はハチの形に欠けてしまった。もう元には戻らない――。


 向こうから父と大人たちの声が聞こえてきた。

 例の、母屋の増築の相談とやらをしに来たのだろう。

 ハチの墓穴だったはずのものを埋め戻しにかかった誠一は、掘り返した黒土の山に何かを見つけて手を止めた。ハッとした。九月の木漏れ日を受けて小さく光る、それは間違いなく子犬の牙だった。

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