第2話 謎の主人《あるじ》が居る店

 中学校の寮に入る前日お父さんに銭湯に誘われた、家にお風呂が無いので当然の事でも有るけど。


 そしてお風呂上り、お父さんはお風呂屋の外に置いてあるベンチに三人の真ん中に座って左側の中年の人と、右側のかなり年上に見える人たちと、何やら星の話をしていた様だ。

「お父さんお待たせ」と声をかけると、お父さんは

「娘が上がって来ましたんでまた今度」と言って立ち上がった。

 右側の人が「えー娘さん!大きな娘さんが居るんだねえ、仲が良くって良いねえ、こりゃあ美人さんだ」と嬉しいを言ってくれる、社交辞令(むずかしい言葉知ってるでしょ、簡単に言えばおべんちゃら)と分かっているがそんな事言われたことが記憶にないわたしは、お風呂上りでなければぽっと顔が赤くなっていただろう、すでに赤くなっていたわたしだが、もっと赤くなったかな、お辞儀をして歩き出す。

 おとうさんが「美人さんか、嬉しいこと言ってくれるな」と言うから

「お世辞だよお世辞、美人なんて初めて言われたもん」と返す、

「いやそうでもないぞ、親が言うのもなんだが色白ってのは美人に決まってる、そろそろ男の心配をしなきゃならんな」

「そんな心配いらないって、誰も相手にしてくれないから」

「いやいや中学生になったら分からんぞ、お前なら高校生にも見えるからなあ、たちの悪そうな連中はもちろん、優しそうに近づいてくる奴も裏でわるってやつもいるから気をつけろ」

「どうだか」

 そう言いながらお風呂屋さんのすぐ近くにある食品店、看板に<スーパー便利なスーパー便利屋>(脱力)と書いてある入口からすぐに奥が見える古くて小さな店(どこがスーパーよ)でのぼりが立っている店頭の冷蔵庫のからアイスを選んだ。


 このお店のご主人の正体を私は知っている、小さい頃にこうやってお風呂帰りに立ち寄った時に見てしまった。

 父に言ったら話がややこしくなりそうなので、翌日こっそり覗いてみたらやっぱり人でないモノが棚の整理をしていた。

 学校の子たちとは話をしなくなった私だけど、大人相手なら物怖じしないで話せる私。

「おじさん、どうして豚さんの格好してるの?」

「えっ、豚さん?ああ太っているから豚さんに見えたのかな、ちょっと痩せないとなあ」

「ううん、ほんとは豚さんなんでしょ、どうしてお店で働いているのかなあって」

「豚に見えちゃう?ほんとに?君のお父さんにもバレてなかった筈なんだけど、、、妖怪って知ってるかな」

「妖しさんなら知ってる、友達だから」

「出たー陰陽師の知り合い何ていないだろうね」

 おじさんは緊張した口ぶり。

「おんみょうじ?って何?」

「し、知らなきゃいいの、妖しの友達ってどんな子だい」

「ざしきわらし君とさん、よく遊ぶのは六人かな」

「ええっ六人も居るんだ、何処にいるの?」

「学校、他の所は暮らしにくいんだって」

「なるほどねー、学校なら隠れるところがいっぱい有りそうだ、そんな所に居たのか」

「おじさんも会いたい?」

「んーおじさんは仕事が有るからねえ、それにおじさんだし、今時妖しが見える子は珍しいな、やっぱりお父さんの影響かな」

「お父さんあなたが豚さんだって知ってるの?」

「そこまでは分からないけど普通の人じゃ無いことくらいは分かっている筈だよ」

「へーそんな事初めて聞いた、あっもしかして、いやそんな事ないなもし妖しさんだったら私正体分かっちゃうから」

「どんな妖しでも正体が分かるの?」

「分かってるつもりだけど、山とか川とか危ない所は神様が入っちゃいけないって教えてくれるの」

「へーほ、ほんとに神様?神様何て会った事ないし、俺たちなんて一瞬で消されてしまうだろうから会いたくないなあ」

「そんな事ないよ、優しい人だよ雨が降った時雨宿りする所が無かったけど木の中のおうちに入れてくれたよ、温ったかくて気持ちよかった、外に出たら皆ずぶ濡れになってたけど、こればっかりは教えられないからね」

「そ、そりゃ黙ってるしかないな、頭がおかしくなったって思われて仲間外れにされちゃうぞ」

「もうそんな状態だから別に構わないけど、目の前に居るよって言っても分かってもらえないから」

「そうだよ、誰も分かっちゃくれない、だからおじさんの事も黙っていて欲しい」

「大丈夫、言わないし、言っても『確かに豚だ』って勘違いされてお仕舞だよ」

「ははは、そりゃいいや、それじゃあ痩せられないな」

なんてことが有ったんだ。


帰り道アイスを舐めながら聞いてみた。

「お父さん、便利屋さんの主体知ってる?」

「正体?ってあの店のご主人じゃないか」

「とぼけてもダメ、私が妖しさんの正体見敗れるって分ってる筈よ」

「今でもか」

「ほら分かってる、今なら完璧かな、ただね成りすましている姿は分からないの、憑りついた元の動物や昆虫の姿に見える、ただね花の精に見えてた子たちがハエとか蜂だとわかってがっかりしちゃった」

「よくお花とお話ししいているとか言ってたな、普通はもう見えなくなる頃なんだがな」

「神様だって見えちゃうんだ、この道は今は通ちゃいけない、右へ行きなさいとか言われるし」

「神様なあ、あまり近付かない方がよさそうだがな、人とアリいやダニみたいな関係らしいぞ、ダニなんて普段気にも留めずアイロンをサッと掛けたら気付かずにお陀仏だ、神様に取っちゃ人なんてダニのようなものなんだ」

「神様には会った事ないんだ、確かに気まぐれだね」

「十六夜姫か、母さん何か言ってたか」

「えっ、知ってるの?」

「いやほとんど知らん、神の使いとかって聞いたくらいだ、母さんしか知らない事だ」

「神の使い?巫女って事?巫女って事なら納得も出来るけど、普通の学校で良いの?」

「いや父さんだって知らない、だから母さんは何も言わないのかって事」

「うん時が来れば分かる、それだけお母さん記憶が怪しいから」

「お母さんにそんな事言うんじゃないぞ、思い出したら大変だ」

「えっどういう事?」

「昔の事だ、、、お前が小さなときにな、、、行方不明になったことが有ってな、、、」

「行方不明、私が?」





 レジの所でわたしはおかしなことになっているのに気が付いたアイスが二つにいつの間にかチョコレートが置いてある。


 居た。

 レジを打ってるおじさんの後ろに小さな小さな子供姿のあやかしさんが二人、背の高さは10cmくらいだけど、顔は小学校一年くらいに見える、わたしが怖い顔をしてにらむと二人は手を取り合って直立で固まる(かわいい)でも人を騙すような事はいけないと教えておかないと。

 お父さんと店の人にはどう見えているのだろうか、わたしはお父さんをつついてアイスを指さす。

 お父さんはチョコレートより先に、ふたりのあやかしさんに気が付いた。

「かわいいねずみですねえ、逃げたりしないんですか?」

「えっ、ねずみ!」と言ってお父さんの視線を追って後ろに振り向くレジのおじさん。

 「あーこれ、さっきの子供連れのお客さんの忘れものじゃないですか、よく出来てますねー本物かと思いあせりました、時々出てくるんですよ」

「あー嫌がる人もいるんですね」

「はあ、まあそういう人はウチには来ませんけどね」

「あれ、お前アイスとチョコも食べるのか」わたしに聞いてくる。

「う、うん久しぶりで食べたくなっちゃった、だめ?」

「いや別にかまわんが」


 店を出てすぐに「おとうさん、今のねずみに見えたの」と言って店の前に置いてあるベンチにお父さんを引っ張って一緒に座らせる。

「ああ、服着せられてたけどどう見ても生きたネズミだったぞ」

「服って分かったの、わたしにはね、お人形さんみたいな小さな子供に見えたの、お父さんもちょっとは見えるのかな」

「どういう事だ、子供がどうした」

「んーほんとはただのネズミなんだけど、、子供の魂が憑りついてるの」

「憑りつかれてる?」

「死んでしまって、未練を残した魂が生きている者に憑りついた」

「物の怪と言う奴か」

「うん、あやかしとか妖怪とも言われてる、今の子だってその辺にいるネズミだから服なんて着てるはずないの、だからお父さんも妖しが見えるのよ」

「あー確かにな、子供の頃は良く遊んだ、すっかり忘れていたな」

「なーんだお父さんの遺伝なんだ、そういう事は早く言っておいてよ」

「すまんなあ、いやほんとに忘れていた、何十年も昔のことだからなあ」

「何十年はオーバーでしょせいぜい二十年位じゃないの」

「そ、そうだった、昭和の初めは色々あってな、ずっと昔の事の様だ」

「もう平成でしょ、昭和の初めならおじいちゃんになってるよお父さん」

「そ、そう平成だ平成、コロコロ変わるからよく間違うよなあ」

「なんかずーと昔の人みたい、明治生まれだったりして、そんな訳ないか」

「あ、当たり前だろ、大正生まれでも百歳前後だぞ、大学生と間違われることも有るんだからな」

「そうそう、お母さんと二人でいたらいい感じのカップルだもんね、とても子供が二人居るように見えない、上は中学だと言うのに」


 わたしは右手に持ったチョコレートを包み紙を開いてベンチの下、わたしとお父さんの間にそっと置いた。

「何するんだもったいない」

わたしは小さな声で「静かに、見ていて」

するとさっきのあやかしさん二人がこっそりと後ろの方から現れた、「来たよ」

二人とも小さな声で「ん、何処だ」

「まだ奥の方、目を離さなさないで」と言ったとき、チョコレートがずるずると後ろへ引っ張られて行く。 

「なんだあ」

「奥を見て」

「あっさっきの、ネズミか?、、暗くてよく分からん」

「お人形に見えなかった」すこし不満そうに言ってみる。

「んーはっきり見えなかったからなあ人形と言われれば、そういや立ってたか」

「立ってたよ、男の子と女の子、兄弟かなあ」

「なるほどなあ、お前にはそう見えるのか、父さんは暗くてよく見えなかった」

「あーわたし鳥目の反対、なんて言うの、猫目、フクロウ目、暗くてもよく見えるんだ、知らなかった」

「そうか小さな時から、暗いところ怖がらなかったなあ、暗いとこでも平気で歩いてたから、そういや暗いって聞いたことがなかったかもしれんな」

「小さい時からそうだったの?」

「一歳頃から天文館に連れて行きだしてプラネタリュームの暗い部屋に慣れたのか、そのなんだ、一晩山で神隠しにあった時でも怖がったりしてなかったし、暗かっただろうって聞いても、お昼みたいに明るかったってニコニコして答えてたからなあ、生まれた時からそうだったかは何とも言えんなあ」

「そう聞くとなんだかおバカの子供みたい、まあ今でもそうだけど」

「い、いやみんな褒めてたぞ、しっかりした子だとか、天下無敵だとか」

「天下無敵ねー、そうそう幼稚園の頃この辺の子供をよく捕まえて怖がらせていたよ、だけどあの子たちもいけないのよ、わたしのことお化けとか、ドラキュラとかってからかうんだもの、だったら怖がらせてやろうって、手当たり次第追っ掛けまわしてた」

「そうだそんな時が有ったなあ、それで父さんの望遠鏡を使わせたんだ、望遠鏡覗いてたら静かだったからなあ」

「ああーまんまとその魂胆に乗せられてたのか、乗せられて良かったね」

「どうかな、あのまま大きくなってたら大物になってたかも知れんがな」

「もう大物だったよ、小学校で一番の」

「それって大物っていうのか」

「自分でいってりゃ世話ないね」

「背が高いの気にしてるのか」

「ううん、全然気にしてない、もっとも何もかも気にしてない、わたしはわたし」

「いい性格だ」

「ほんとにそう思う?、すごく我儘わがままなんだけど」

「そんなことはない、今チョコをおごってやったじゃないか、どなたさんかに」

「だってあの子たちお金持ってないし、ほっとけば勝手に取っちゃうかもしれないでしょ」

「だから、我儘わがままなだけじゃないし、知らんふりをしていた訳でもない、親が無くても子は育つって、よく言ったもんだ」

「言っておくけど、ちゃんと感謝してるからね、今はまだ何にも出来ないけど」

「感謝してくれてるならそれで十分だ、最近はどこにも連れて行ってやってもないのにな」

「わたしが家に帰ってないから、じゃないの」

「いや、弟が生まれるってことも有ったしな、それ以前に計画も立ててなかった、そうだな旅行は今年は無理そうだが来年辺りどこかに行くか、車の免許でも取っておくかな」

「車買うの?駐車場とかは」

「いや買うつもりは無い、たまにレンタカー借りる程度だ」

「じゃあ免許取ったらどこかに連れて行って、すんごい田舎の星が見えすぎて星座が分からないくらい見えるところ」

「やっぱり星か都会とか興味ないのか」

「ないない、私天文以外興味わかないの」

「もう少し他の事も興味持った方がいいぞ、帰るか」

「うん」



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