第5話

「本人はもちろん」

 とまとの歌とダンスに目を細めたまま、神山が奏太に語りかけてきた。

「ダンスもメイクもバックバンドも衣装も、町の皆の手になるものだ。とまとはこの町と商店街の力でできている。皆そのことを誇らしく感じている。お前だってそれは同じはずだろう、奏太。作曲担当」

「分かってます。だけど」

 奏太は拳を握って自分を励ました。

「何だって流行れば廃る。人気は落ちる。いつかは卒業するのなら乗ってる今が一番いい。違いますか? 商店街の皆も、とまとから卒業して新しい道に……」

「バカを言うな。卒業なんかされてみろ、来客数はガクンと減るぞ」

 こちらを向いた神山が声を大きくした。

「お前たちだけの問題じゃない。町の、市の問題でもあるんだ。とまとを失って街が活気を失くせば税収は落ち込む。ホールが負債の塊に化けて、佐倉町商店街は周りから白い目で見られる」

「奏ちゃんを責めないでください」

 いつしか曲は終わり、ステージ上の智子は翔太たちを見下ろしていた。スポットライトを浴びた彼女はマイクを使わずに声を張った。

「私、歌やダンスが、とまとでいる時間が好きです。皆が笑顔になってくれるから。だけど奏ちゃんの言う通り、きっと、ずっと大人気のままではいられません」

 奏太にとっても神山にとっても、それは智子から初めて聞く弱気な言葉だった。

「いつか、地元の食材をメインに使うレストランを開いて、自分の料理で町の皆を笑顔にしたい。それが私の小さい頃からの夢なんです。神山さん、私に夢を追いかけさせてください。アイドルを卒業させてください」

 智子がステージから下りてきて、お願いします、と神山に深く頭を下げた。

 神山はいかにも悩ましげに眉間を摘んだ。

「……俺だって智子の意志は尊重してやりたい。ただ、コミュニティが不利益を被ることも、出来る限り避けたいんだよ」

 他の青年団員たちにも視線を向けて、長考の末、神山は奏太たちに向き直った。

「投票で決めよう」

「投票?」

 学生三人は疑問の声を揃えた。

「とまとの進退を民意に問うんだ。選挙のように活動期間を設ける」

「卒業させてほしいとファンに訴えるんですか? 変な感じだなあ」

 英介の感想はもっともだと奏太も思った。前代未聞だ。神山は真顔で続ける。

「投票の結果、活動継続を望む声が大きければ本気でアイドルを続けてもらう。もしそうでなかったなら、そのときは卒業だ。ありがたく夢を追わせてもらうといい」

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