第11話 すれ違う想い
美那が忘れ物を取りに行った後、私が暫く栞を見ていると上から聞き慣れた声が聞こえた。私は徐に顔を上げる。
「あれ、湊人?何でここに?」
「いや…さっき廊下の窓から美那と雪音が見えたから」
「そうだったんだ。…湊人、さっき美那に過去のことを聞かれたんだけど、美那なんか様子可笑しかったんだ。最近そういうのが多くて…何か知らない?」
私は戸惑いながらも心に引っかかっていた悩みを打ち明けた。美那に直接こんな事聞けるわけがない。もし聞いたら何と無く美那を傷つけてしまいそうで怖かった。私の言葉を聞いた湊人の瞳に一瞬だけ迷いの色が浮かぶ。そして次の瞬間、隠す様に目を伏せた。湊人の仕草を見て私は確信した。
…やっぱり、湊人は何か知ってる。
でも、何故教えてくれないのだろうか。理由を必死に考え、頭を回転させていると一つの答えが浮かび上がった。胸がチクリと痛む。
–––––もしかして私のこと嫌いだから?
信じたくない。そうで無いと思いたい。無理やり答えをねじ伏せて、違う理由も考えてみたけど、今の私にはそれしか浮かび上がって来なかった。微かに震える指先で栞を制服のポケットから取り出すと、私は湊人に栞を見せた。
「み、湊人。この栞見覚えある?」
「ん?何が–––っ!」
足元に落ちてた栞。勝手に持ってはいけないと思ったのだが、地面に落としたまま放っておくより後で人目につきやすい場所に置いておいた方が良いと思い、一応制服のポケットに仕舞っておいたのだ。挟まれているクローバーは枯れているものの、栞自体は綺麗だった。何となく、落とした本人は栞を大事にしているのが伝わってきた。私が身構えて湊人の様子をじっと窺っていると、驚いた様に目を見開き、突然私の手から栞を奪った。
「み…湊人…?」
訳がわからなかった。頭が真っ白になる。普段は見ない湊人のその行動に私は只固まる事しかできない。
「…何でこれお前が持っているんだよ。あいつの栞じゃん」
静かに言い放たれる言葉。私は指先から徐々に体温が無くなって行くのを感じた。鼓動が嫌に脈打つ。校庭に響いていた声がただ私達の沈黙を埋めるように流れる。
「あ…ご、ごめん。私が持ってちゃいけなかったかな…私、栞拾って手が汚れたから…洗ってくるね」
言葉を紡ごうとすればするほど震える声。自分でも湊人になにを言ってるのかわからなかった。完全に嫌われた。そう思うと頭を金槌で打たれたようにズキリと痛んだ。心に重りがのし掛かったような感覚を覚える。私は湊人に振り返らず逃げるように庭を後にした。走っていると次第に目の前が霞んでいく。
「私、何してるんだろ…もう、色々わかんないや…でも完全に」
嫌われた。言うまでもなくその四文字が脳内を埋め尽くす。靴を履き替え私は心を落ち着かせるためトイレへ駆け込んだ。…と、その時。
「ゆ、雪音?何、どうしたの?湊人くんといたんじゃ…?」
私の背後から優しい声がかかった。振り向かなくても声音で誰だかわかる。
「美那…私、湊人に嫌われたかも」
「え…?そんな訳っ…」
美那はそう言いかけたが、振り返った私の顔を見ると先の言葉を噤んだ。多分、涙腺が緩んだことで、堪えていた温かい雫が一筋私の頬を伝っていたからだろう。
「雪音…何があったの?」
「美那、私––––」
私は美那に栞のこと、そして湊人の反応など先ほど起こった出来事の
栞の話をした時、僅かに顔を歪めた美那だが、すぐ普段と変わらない表情に戻った。
「そっか…。でも、湊人くんは雪音のこと嫌いじゃない。それは私がちゃんと理解してるし、言い切れる。放課後、湊人くんと少し話してみるね」
「美那…」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ。幼馴染なんだし、すぐに関係戻る」
美那は明るくそう言うと軽く微笑んだ。安堵して心が暖かくなっていく。いつもそうだ。美那は私がつまずいて悩んでる時、励ましてくれる。その性格が何と無く湊人に似ている。
「そうだといいんだけど…。でも、美那の言葉を聞くとなんか––––安心する。
本当に大丈夫なような気がしてくる…」
美那に釣られて私も顔が綻ぶ。私達の間に緩やかな空気が流れた。
*********
雪音と湊人が別れたその頃。湊人と雪音を密かに窓から見ている人物がいた。その人物の口元には明らかに不敵な笑みが浮かんでいる。
「いいとこ見ちゃった。これ、チャンスじゃない?雪音ちゃんと湊人くんの距離を遠くすることができるじゃん?」
歓喜を滲ませた声音。その人物にはまだ誰も気づかない。
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《作者から》
更新遅くなってすみません!今慌てて更新しました…。1週間ぶりの更新ですね…。近々新キャラ出したいと思います。
次話も宜しくお願いします(笑)
今から話の続きを書きたいと思っています
(下書き頑張ろ…)
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