第9話 クローバーの栞
教室に着いた私は早速湊人の席に移動して予習の数学ノートを机に広げた。教室を見渡すと予習をして来なかったのか、慌てて友達から写させて貰う人がちらほらと見受けられた。勿論、自力で予習をする人も中にはいたのだが、大半の人は私のように教えてもらっていた。ふと、窓際で本を開いて真剣に目で追っている美那が視界に入った。多分、美那は予習をとっくに終えているのだろう。再び私は視線を手元のノートに移すと解説する湊人に耳を傾けた。
「この公式はここに当てはめて__ほら、計算してみ?」
湊人に言われた通り、公式に当てはめて問題を解く。すると先程までつまずいていた問題がすらすらと解けた。同時に公式とかけ離れた計算をしていた自分に気づく。
「……私、なんでこんな計算してたんだろ」
「いや、それ俺が知りたい」
「…なんか、数学授業についていけるか不安になってきた…」
「大丈夫だろ。……多分。」
「多分って…まあ、そうだよね。とりあえず私は授業しっかり聞いてよ…」
私は苦笑すると、解き終わったノートをしまった。自分の席に戻ろうとした時、恋咲さんと美那が2人で話している姿が見えた。何やら美那が真剣な表情をしている。暫く2人の様子を見ていると、美那が訝しげに眉を潜めた。何を話しているのか気になったが今は邪魔をしてはいけないと思い、私は湊人に顔を向けた。
「ねえ、湊人。明日、漢字テスト第一回目があるらしいよ。湊人は国語苦手だから、勉強しないとね!」
私はからかうように言う。
「…あ、俺漢字とか無理だ。諦めよ」
「いや、諦めないでよ。明日私と確認テストしない…?今日、数学教えてもらったから…」
「おお!それはまじで助かる。じゃ、明日よろしくな」
私は湊人の言葉を聞くと、微笑みながら軽く頷いた。
*********
一方その頃、美那が窓際で本を読んでいると、明るい声が上から掛かった。本を閉じて美那は声がした方を見る。そこには腰まである長い茶色の髪を微かに揺らしている恋咲花乃の姿あった。
「…美那ちゃん、久しぶりっ」
「…うん、久しぶり恋咲さん。それで用は何?」
今まで挨拶を交わすことさえしなかった花乃が急に近づいてきたのを不審に思った美那は真剣な表情を浮かべて静かに聞いた。
「…湊人君と華原雪音ちゃんって仲良いの?最近あの2人一緒にいるから気になって?少し聞いてみたんだ」
「…それを聞いてどうするの?」
「別に、仲良いから少し私もあの2人のとこにお邪魔しようかなって思ったんだ」
「…雪音に何かするつもり?だとしたら__」
「しないよ。直接はね」
訝しげに眉を潜めて訊ねる美那の言葉を遮って恋咲花乃は言う。鋭い口調で言う花乃に美那は息を呑んだ。直接は、と言うことはやはり何か良からぬことをするのだと美那は悟ったのだ。
「どう言うこと?」
すかさず花乃に訊く。
「さあ…でも直接は何もしないから安心して」
花乃は美那の問いに答えず何かを企んでいるような笑みを浮かべると、美那の元を去った。胸が騒めくのを感じる。
__雪音に何をするつもり?
思わず雪音の方を見る。そこには湊人と会話して微笑んでいる雪音がいた。
__私は雪音にずっと笑っててほしい。
脳裏に浮かぶのは病気で苦しんでいる雪音の姿。美那が街を離れる時、最後に見たのは病室のベッドで苦しそうに顔を歪めている雪音の姿だった。笑顔が絶えなかったのに病気のせいで笑わなくなった雪音。でも、そんな雪音がまた笑えるようになったのは全て湊人のおかげだった。だからこそ、花乃に邪魔して欲しくなかった。2人の幸せを美那が1番願っているのだ。不意に本に視線を移すと、挟んであった栞を手にとった。美那が昔作った手作りのクローバーの栞。
栞を見ながら切なげに目を細めた美那の瞳はどこか寂しそうで、僅かな諦念が潜んでいた。
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《作者から》
9話にいきました。今回短くてすみません…m(_ _)m
小説をフォローしてくれている方が増えていて1人で騒いでました!笑(勿論、内心で!)
見てくれた方、本当ありがとうございます!
ちょくちょく雪音の過去とかをストーリーに出しているのですが、過去の詳細は後々まとめて明らかにしたいと思っています!( ´ ▽ ` ) そして前の話に出していたある出来事も。
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