第6話 騒めく心
母が美那について、何かを知っているような素振りを見せてから私は部屋に駆け込み、何か美那との関係が分かるものはないか、手探りでアルバムを探した。あれから何時間経ったのか分からないが、アルバムを見つけ出してページをめくり続けても特に手掛かりになるものは無い。
…写真ならなんか見つけられると思ったんだけどな。
諦めかけてアルバムを引き出しに仕舞おうとしたその時、一枚の紙がひらりと落ちた。多分、アルバムのカバーか何かに挟まっていたのだろう。
……なんだろう、これ。
紙に短く綴られている不器用な文字。その文字の様子からして、小さい時に誰かが書いたものだろう。折りたたまれた紙を徐に開くと、手作りの栞のようなものに四ツ葉のクローバーが挟まっていた。けれどもうそれは枯れ果てていて、あの鮮やかな緑のクローバーとは無縁の色をしている。
『大好きなゆきねへ。もし、ゆきねが私をわすれても、私はずっとゆきねのこと、わすれないよ』
…誰なの?忘れるってどう言うこと?
……これは何が起きる前?
メッセージの意味が全く分からなかった。何故かこのクローバーが懐かしく、だけど何処か切なく感じた。大事なパズルのピースが欠けてしまったように思い出せない。私はざわめく心を落ち着かせ、その紙を暫く凝視すると、紙と栞を私服のポケットに入れた。母に一言告げて玄関の外へと駆け出す。懐かしく感じた時、不意にクローバーがある広い公園が脳裏に蘇ったのだ。心なしか、今なら何かが思い出せそうな気がした。
……今なら何かが分かる…気がする。
暫く走り続けると広い公園が見えてきた。肩で息をしながら日が落ちて静寂に包まれている公園へ足を踏み入れる。夜風が桜の木々を揺らし、花びらが夜空に舞った。同時に私が軽く羽織ったカーディガンが風を
「あ、れ…?さっき脳裏に一瞬だけ蘇った筈なのに、思い出せない…」
再び思い出そうとすると、頭が割れるような激しい頭痛を伴った。思わずその場にしゃがみ込む。
「痛っ…なにこれ…」
あまりの激痛に目尻に涙が浮かぶ。近くにあった遊具に掴まり無理やり立ち上がろうとした時。
「…雪音__!!」
自転車を止める音が聞こえ、懐かしい声が背後からかかった。
「湊人…」
「お前っ、何でこんな所にいるんだよ。具合悪いのか?なんか顔色悪いぞ」
「湊人こそ…なんで、ここに…?」
「俺は塾の帰りに親に買い物頼まれたんだよ。家に帰る途中にこの公園で具合悪そうな奴を見つけて。まさかと思って自転車を止めて近づいたらお前だったってわけ」
「湊人…私。この手紙と手作りの栞を部屋で見つけたの…。それで、懐かしく感じたのと同時にこの公園が脳裏に一瞬だけ蘇って」
私がポケットから栞と手紙を見せると明らかに湊人の表情が変わった。
「ねぇ、湊人…知ってるの?私、知りたいのに、全然わかんないっ…思い出したいのに思い出せないの」
思い出す為にここに来たのに具合が悪くなる自分自身が悔しくて惨めで、私は握りしめた拳に力が入った。目の前が滲んで、視界がぼやけて上手く見えない。俯いて唇を噛み締めていると、
「…そうだよな雪音。思い出したいよな」
優しい声がして、私は力強く抱きしめられた。
「湊人…」
いつだって湊人は私のことを理解してくれて、支えてくれた。私が入院している時もいつも私のそばにいてくれて励ましてくれた。そんな湊人だから私は。
__湊人の事、好きになったんだ。
不意に、あの日の放課後に恋咲さんに言われた言葉が脳裏に浮かんだ。
『湊人くんが幼馴染でもなかったら貴方なんかに近づくわけない』
そう言われた時はなにも言い返せなかった。だけど、今は自信を持って言える。湊人が近づいているわけではない。''私自身''が湊人に近づいているのだと。
…湊人が私のことなんとも思っていなくてもいい。それでも私は湊人が好きだから。
そう内心で小さく呟くと心が少しだけ強くなったような気がした。
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《作者から》
久しぶりの更新…5日ぶりだ。更新遅くなってごめんなさい!今日はあともう1話更新したいと思っています笑
多分、すぐかけると思います。私が書きたかったシーンなので…笑
次話もよろしくお願いします!
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