第5話 関係

私がぶつけた質問に、美那はただ黙りこくった。店内は賑わっているのに、重苦しい沈黙が流れている私達はまるで違う世界にいるように思えた。手元のパンケーキを見ると、形が整っていたソフトクリームは溶け出して、パンケーキの生地を濡らしていた。

時間の経過を、示しているようだった。


「…美那、どういうこと?何で私と湊人の関係を知ってるの?」


訊いてはいけない事だと思った。だけど、考えるより先に口走っていた。私にとっては率直な疑問だったのだが、美那はこんなこと聞かれたくなかったのかもしれない。そう思うと言ってしまった事に罪悪感が募った。謝ろうと口を開くものの、内心では知りたいと思ってしまう。私が葛藤していると、美那は短く息をついた。そしてその直後この重い空気を消し去るように、明るい声色が私にかかった。


「…何でだろうね。あ…!私って超能力者なんじゃない?」


「…はい?」


いきなり想定外なことを言われ、私は素っ頓狂な声が出た。同時にはぐらかされた事に気づく。


「み、美那…今はぐらかした、よね?」


「さあ、私は思った事を言っただけだよ?」


肩をすくめる美那。先程のあの美那の表情が嘘だと思われる程、何事もなかったかのように振る舞い、接する美那に一瞬こっちが可笑しいのかと自分を疑った。

たが、次の瞬間もうそれはどうでもよくなってしまった。さっきまで私達の間に漂っていたあの重苦しい空気はいつの間にか無くなり、明るさを取り戻していたから。何となく、今のこの時間ときを楽しみたかった。それに冷静に考えてみると、無理やり美那に追求するのは自分勝手だろう。美那が言いたくないなら、それでいい。


「もういいや…何かどうでもよくなった。早くパンケーキ食べよう、美那」


「…え?」


「美那が言いたくないなら、無理して言わなくても大丈夫」


驚く美那に私は微笑むと、再びパンケーキを切り始めた。

********************

それから30分くらい経った頃、パンケーキを平らげた私達は会計を済ませ、店を後にした。他に寄り道をしたかったのだが、生憎美那は塾があるらしい。寄り道を諦め、美那と別れると私は真っ直ぐ自宅へと向かった。家に帰るなり私はリビングに駆け込み、ソファに腰を下ろしている母親に今日の出来事を告げた。出来事を報告するのは決まった日課なのだ。もし、発作が起きて具合が悪かったら私の場合、すぐに病院に行かなければならない。


「お母さん…今日、発作は起きたけどすぐに治ったよ。あと、学校は何とか大丈夫そう。湊人と同じクラスだし…美那もいるし」


私がそう告げると母は一瞬、僅かに顔を曇らせて、


「…そう」


と、短く言った。何故そんな表情をするのか私は少し疑問に思ったが、今のは誤認だと思い言葉を続けた。


「美那、すごいんだ。…私が湊人と幼馴染だなんて一言も言ってないのに、何故か知ってて…」


私は今日の美那との会話で不思議に思った事を告げた。何故、美那は湊人と私が幼馴染だというのを知っているのか。心染み付いてしまったように、その疑問は未だ晴れない。


「…雪音。覚えてない?」


「…へ?何を?」


私が母に聞き返すと言いたくないのか、或いは言えないのか私の問いにただ母はかぶりを振った。苦痛な面持ちを見ると、声には出さないものの、これ以上聞いて欲しくないと言っているように見えた。それがさっきの美那と重なり、たまらなくなった私は思わず母に身を乗り出した。訝しげに眉をひそめる。


「ねぇ、どういうこと?そう言えば、さっき美那も不自然なこと言ってた。2人して何?」


私は錯乱した。何かが可笑しかったのだ。大切な何かを忘れてしまっているのではないかと思い、私は焦燥感に駆られた。


「ううん。何でも。でもいつか、知りたくなくても知ってしまう時がくると思う」


母は私に静かに言うと、徐に立ち上がった。取り残された私は1人でソファの前に立ち尽くす。


…何でみんな教えてくれないの?


「__一体私と美那に何があるって言うの?」


誰もいないリビングに重苦しく吐き捨てた私の問いは、静寂に包まれた室内にこだました。開いた窓から吹き抜けた風はただ私の頬を掠めた。


____________________

《作者から》

5話きたー!…でも今考えてみたら湊人が全然出てきてないΣ(゚д゚lll)

次、出さないと。恋愛入れないと…。


見てくれた方ありがとうございます!恋愛書き慣れていないのですが頑張ります((

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