第3話 戸惑い

長い入学式とは対照的に帰りの短いHRは無駄に長い話はなく、10分程度で終わった。彼方此方で椅子から立ち上がる音が聞こえ、騒がしかった教室は次第に静寂に包まれた。先生に呼ばれて席を外している美那ちゃんを1人で待っていると一つの足音が近づいて来るのが聞こえた。振り返って目の前に飛び込んで来た姿に思わず私は顔を強張らせる。


「…華原さん。だったわよね?」


「あ、うん。…恋咲さんだったよね。どうしたの?」


「湊人くんについて聞きたいんだけどいい?」


柔らかな声。だけど私に近づいてくる恋咲さんを一瞥すると、瞳は何かを探るかのように鋭かった。


「…湊人くんとは、どう言う関係なの?朝一緒に登校してたよね?」


「湊人とは…ただの幼馴染だよ」


突き刺さる視線に、私は目を逸らしながら告げる。これ以上関わらないで欲しいというのが私の本心だった。


「幼馴染…ね。だから一緒にいるんだ?それなら別にいいの。まあ、それもそうよね。湊人くんはになんて、なんともなかったら関わらないと思うから」


力強く言い放たれる言葉に私は何も言い返せなくなった。恋咲さんの言葉通りだと思ったから。


…そうだよね。病弱な私だから、そして幼馴染だから仕方なく湊人は私と一緒にいるんだ。


心の何処かで少しだけ期待して、同じ高校に受かって浮かれていた自分に嫌気がさした。湊人と私の幼馴染の壁は簡単に超えられるわけではないのに。


俯いていると、私にとどめを刺すように通りすがりに耳元で恋咲さんが呟いた。


「まあ、そういうわけだから悪いけどもう湊人くんには近づかないでね?」


恋咲さんが教室から去っても嘲笑うように囁かれた恋咲さんの声が耳に残っていた。あんなに言われるだけ言われたのに、何も言い返せない私自身に殺意が湧いてくる。


__私は、自分自身が本当に嫌いだ。


息が苦しくなり、思わず私は咳き込んだ。咳き込みすぎて目の前が霞んでくる。発作は起きづらくなったものの、まだストレスや負担が少しでもかかると発作が起きてしまうのだ。いつも持ち歩いている吸入器をバックから取り、すぐに使用した。


「…もっと強くなれたらいいのに」


吸入器を握りしめ、私は小さく呟いた。願いが叶うなら病気や発作に縛られないで自由になりたい。本当は今日も不安だった。湊人の前では強がって言わなかったけれど、心の隅では発作が起きないかずっと考えていたのだ。何とか今日はやり切ったと思ったけど、最後に発作が起きてしまった。


…でも大丈夫。私はまだ頑張れる。次はちゃんと自分の意見を言えるように、努力しよう。


不安を無理やり振り払い、前向きに考え決心したその時。


「ごめん…!雪音ちゃん!あの先生人使い荒すぎて…」


パタパタと廊下を忙しく走り、ポニーテールにした髪を揺らしながら教室に入ってくる姿が見えた。


「ううん、大丈夫!美那ちゃんお疲れ様」


手に持っていた吸入器を急いでバックの内ポケットに入れる。なるべく持病を持っていることは知られたくなかった。


「ありがと、雪音ちゃん。じゃあそろそろスイーツ食べに行こ」


「うん、そうだね」


バックを閉めると私は美那ちゃんと一緒に教室を後にした。校門を抜けると美那ちゃんが不意に振り返り私に問いかけた。


「私の勘違いだったらごめんね。雪音ちゃん、私が教室にいないとき、何かあった?」


「…え?なんで?」


「何か、元気なかったような気がして。それと後一つあって…私が先生の頼みごとが終わって教室向かった時、恋咲さんとすれ違ったから。生徒が一般下校過ぎてるのに残ってるの珍しいなって思ったんだ」


「あ…ちょっと湊人について聞かれただけだよ?」


自分では平然を装っていたつもりだが、全て美那ちゃんに見透かされていたらしい。


「そっか。それなら良かった。もし何かあったら私に言って。あの子、裏があるから…特に恋愛が絡むと本性がでるの」


「え?なんで美那ちゃんそれ知ってるの…?」


私が尋ねると美那ちゃんは一瞬躊躇したものの、やがて意を消したように口を開いた。


「___私、恋咲 花乃ちゃんと同じ中学だったんだ」



____________________

《作者から》

3話にいきました!見てくれた方ありがとうございます!次回も見てもらえたら嬉しいです笑

よろしくお願いします( ´ ▽ ` )

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