カッコイイドラゴンになりたい!

二日目の登校。


「全く……あの後しこたまブタれたわ」

「校舎燃やすのはやり過ぎだよ〜」


ラフィアは頬を膨らましてぷりぷり怒っていた。そんな彼女も可愛いけど、頬が少し赤くなってて可哀想。


結局、校舎は直されたらしい。一晩で完全修復をやってのけた優秀な(すごく優秀な!)クレイドラゴンと朝すれ違ったけど、ナワバリに辿り着く前に木陰で力尽きていた。口から漏れ出す砂を見るだけで胸が痛かったよ。


学校に辿り着いて、少し焦げが残るハウンドドラゴン先生に挨拶。校舎は改善され、始めから屋根が無い。遠目からでもマウントドラゴンのマントルくんが見える。

教室に入ると、深海龍のアーティンくんだけお休みだった。どうやら、ラフィアの黒炎で熱中症になったらしい。どうして彼は学校に通わされているのだろう。


「はーい! 皆さんおはようございます!」

「「おはようございます」」

「早速ですが、今日は重要なお知らせです」


マザー先生がまた人間の姿で教壇に立つ。昨日のこともあってか、ラフィアは僕の後ろに隠れるように話を聞いていた。


「今日から授業は一日一コマにします。その代わり、一コマ百二十分ね」


まわりから「おぉ!」と歓喜の声が上がる。いや、二日目なのにみんなもう学校嫌いなの?


「ということで、今日はドラゴンの醍醐味! 『カッコイイ登場の仕方』を講義します!」


きたきた! これだよね! 人間と遭遇した時のカッコイイポーズ! ドラゴンの気持ちいいポイント!

ラフィアは隠れながらも、尻尾をゆっくり振っていた。乗り気だ。彼女は見栄っ張りだから普段からたくさん練習しているんだ。


「さぁ、グラウンドに出ましょう!」


みんな揃って羽を羽ばたかせる。

しかし、全員マザー先生に叩き落とされて徒歩で移動することになった。

基本、学内は飛行禁止なのである。






「グォオオオオオ!」

「いいよいいよ! マントルは優秀なドラゴンね!」


勤勉なマントルくんは炎を使わず、マウントドラゴンの大きな身体を空中でクルンと回転させて吠えた。

やっぱり凄いな彼は。何でも出来ちゃうんだ。


「さて次は、カラタケ!」

「はい!」


大きく手を上げたカラタケくん。その羽のせいで突風が吹き荒れ、マザー先生のウィッグが彼方へと飛んでいく。

そのロングヘアー、ウィッグだったの?


「元気がいいね!」


ショートヘアーのマザー先生、気にせずニコニコ。


カラタケくんは空中に飛び立つと、高速で僕たちの周りを周回する。少し遠目から目の前までやってきて、地上に炎を一薙ぎ。ギラリとした目線がカッコイイ!

だけど、マザー先生は渋い顔をしている。


「もうちょっとアクセントが欲しいわね。ん〜、炎は上に吐いて、睨む前に一度強い羽ばたきを入れてみたら?」


言われた通りにするカラタケくん。なんと、見違えるほど大物ドラゴンの貫禄を出していた。

みんなもその違いに拍手喝采。カラタケくんは照れ照れとこちらに戻ってきた。


「じゃあ次は……ラフィア」


まだ僕の影に隠れていたラフィアは、よし行くぞと鼻から炎をフンと出した。可愛い。

ラフィアがグラウンドの中央へ寝転がり、目を覚ました所からスタート。シチュエーションは懲りたいらしい。

のそりと立ち上がり、一度羽ばたき。そして、僕たちを包む一帯の温度がグッと上がった。

あ、まずいぞこれは……。

口から漏れ出す黒炎。全員が嫌な予感を肌で感じ、数歩後退する。

しかしラフィアは、同じ轍は踏まない。空高く黒炎弾を打ち上げ、炸裂した黒炎は無数の流星群となって降り注いだ。

その中で『グルルルガァアアアア!!』と怒号を上げるラフィア。今日はまた一段と素敵だ。熱いけど。火の粉熱いけど。


「うん、これはお手本のような登場ね! やるじゃないラフィア!」


ご満悦の親子。今回はハプニングなく終わりそうだ。

そう、思っていたのに。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。


大地が揺るぎ始め、みんなが何事かと辺りを見渡す。すると、ラフィアを中心に地面に亀裂が走る。

途端に、グラウンドの真ん中から崩れ落ち、凄まじい崩落音と共に地盤沈下が始まった。

みんな空へと避難したけど、ラフィアは態勢を崩していたせいで巻き込まれて落ちていった。


「ラフィア!」


僕が慌てて近づこうとしたけど、ラフィアの衝撃の姿を目撃してしまい身体が止まった。

なんと、ラフィアは身体を地面に埋めたまま顔だけ地上にひょっこり出していたのだ。何が起きたのか理解できないといった呆けた表情は、なんともシュールだった。


「私じゃ、ないもん……」


まさかの弁解。

だけどマザー先生はフルフルと震えていた。わかってる。黒炎を出す衝撃で、地下の空洞に学校ごと落盤したのだ。

ラフィアのせいである。


「私じゃないもん!」

「待ちなさいラフィア!」


傷一つなく地面から飛び出したラフィア。それを追いかけるマザー先生。

二つの金色の星を眺めながら、残されたボク達は無言で飛んでいた。次に動き出せたのは、土臭いハウンドドラゴン先生が笑顔で現れた時だった。


「みなさん。今日の授業は終了です。気をつけて帰りましょうね」

「あ、あの……」

「なにかなマークツー?」

「明日は……」

「明日も授業はあります。校舎とグラウンドはクレイドラゴンに徹夜で修理させますので安心して来てくださいね」


また一晩で山一つを地中から復活させなければいかないクレイドラゴンの顔を想像するだけで涙が出る。


こうして、ボク達ドラゴンの二日目の授業は終了した。一日一回校舎が潰れるけど、きっとこれからも続いていくのだろう。クレイドラゴンが過労死しないことを祈って、今日はもう帰ろう。


とりあえず、吠える練習はしようかな。


「わんっ!」

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ドラゴチック学園 琴野 音 @siru69

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