辻橋女子高等学校⑪ ― うちの姉がジュニア造成工事割引チケットをもらえないからといって落胆するわけがない
勝手に余計な単語を挿入するのやめていただけませんかね。
しかし困ったな。本当のことを言ったところで絶対に信じるわけがない。自分が二重人格で夢遊病持ちなんて信じるわけがない。だって覚えてないんだもの。自覚がないんだもの。しっかりとベッドの上で優雅に美しく寝ていると思ってるんだもの。
かくなる上は……話を創るしかない。
「……追い剥ぎってさ、知ってる?」
「追い剥ぎ? あの一瞬にして相手から物をかっさらっていくというあれか。…………まさかジュニアを」
「とられてない。とられてないです僕のジュニアさんは」
「そ、そうか」
昨日風呂場を覗いて見てたじゃないか。何を今更すっとぼけて聞いてきてるのかねこの人は。なにを ふむ。 みたいな顔しているのかな。
「じゃあ何をとっていったんだ?」
「全部だ。話の流れを踏まえてしっかりと伝えるならば、ジュニア以外全部だ」
「ジュニア……以外……」
「とりあえずジュニアから離れてくれ。そのあと、背の高い化粧が変な女性のような人が通りかかったんだ」
「化粧が変?」
「ピエロみたいな」
「追い剥ぎの次はピエロか」
「で、俺は必死に股間を隠しているわけだが、その様子を見てその人はクスッと笑ったんだ。そして近づいてきて胸ポケットから何かを取り出して俺に差し出すんだ」
「やっぱジュニアの話じゃないか」
……返す言葉がない。
「ちなみにそのチケットを受け取った時というのは、ジュニアの方は方位変更型フトモモシェイドだったのか?それともワンハンドブラインドか?」
方位変更型フトモモシェイド……?
ワンハンドブラインド……? 片手で隠していたということか?
なんだその用語達。聞いたことないぞ。
「だから股間から離れろとさっきから」
「いいから答えろ。とても重要なんだ」
「……どちらでもない」
「というと?」
「アレを後ろに押しやって、太ももで抑えて見えないようにした」
「ほおぉ。なるほど。そんな技も使えるのか。すごいな、奏陽」
……いや。見方を変えれば、それはその手法をとれるだけの至らない一物ということを意味するだけに、褒めてくれているのだろうが、素直に喜べない。その前に俺はそんなことはやっていないから喜ぶ資格もないのだが。
「……でですね。そのチケットがですね。アレの工事割引チケットだったんですね」
ジュニアから離れてくれと言ったものの、離れられなくしているのは俺じゃないか。
「深夜に整形の割引チケットを配るピエロ……とんだピエロだ。じゃあ私はジュニア造成工事割引チケットをもらえるのか?」
「……わかりません」
「なんだつまらん」
さっきの沙紀の言葉に少しばかり期待が含まれていたのは姉ご機嫌感知レーダーで気づいていたが、そんな落胆するほどに欲しい物だったのか?それは弟としてちょっと……ちょっとあれだぞ。
「おそらくその人は、俺がジュニアがあるから恥ずかしくて前を歩けず、後ろにも歩けない状態だと思ったんでしょう」
「ふむ、なるほど。だったら無くせばいいという発想か」
こういう、あらゆる可能性をすぐ否定せず、一度は思考にとりこむところは沙紀らしい一面といえるだろう。
ただ、どういう理由であれ、深夜に真っ裸の男にいきなりそんなチケットを渡してくる……しかもピエロかなにかに見える濃い化粧をしているなんて、もはや妖怪の類と言ってもなんらおかしくない。
「で、結局、工事はしたのか?」
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