辻橋女子高等学校⑫ ― 裸で生活するのが正装ですと姉に伝えて鵜呑みにして実行するかどうか検証したくなったというのはここだけの話

「いやしてねーよ。昨日存分に見てたじゃねーか。弟のお風呂場シーンをこっそり覗いてさ」


「見え……なかった……。そう、見えなかったからもう取ったのではないかと思ったじゃないか。あるのか?お前のジュニアは本当に。今」


 だからなんでそんなご執心なんだよ、俺の股間に!

 そういえばその内容は今日話してくれると言うことだが。深刻そうなもの言いだったが一体―――。

 ってか今話の流れをいいように使ってアレを見なかったことにしたな?


「……で、そのチケットを見ながら佇んでいたら、どこからともなく現れたおかまさんにおむつと交換してくれと頼まれたんだ」


 沙紀は手をあごに当てながら少し斜め下を向く。


 しまった……! さすがに無理があったか?

 しかし多少の無理がある方がリアリティ感がでると思ったんだが。


「…………深いな」


 どうやらさっきの創作話は沙紀の思考の奥深くまでたどり着いたらしい。


「その人はわらしべ長者でもしていたのだろう。股間の辺りを中心にな。そしてそのチケットにたどりついたと…………深い。実に深いなこれは」


 そんなわらしべ長者あるか? もはや股間長者じゃないか。

 まあそれはどうでもいいが、とりあえず疑われてなくてよかった。


「……で、そのあとおばあさんが小走りに走ってきたんだが、なんか孫のオムツが切れたとかで、要はオムツを欲していたから、俺が持っていたオムツを渡したんだ。なんかそれでよかったらしく、変わりに孫ので良ければとパンツを渡されたんだ。まぁ、それがクマウサパンツだったわけだが……それを穿いてなんとかなった」



「……………………」


 沙紀はだまった。

 いや確かにそうだよな。そうだよ。つっこみどろしかないもの。オムツは大人用なのか子供用なのかわからないし、第一、オムツをしなければならないような子供パンツを穿けている時点でおかしいし、そもそも深夜にしては通行量が多すぎる。タイミングよすぎるし。



「……現実は小説よりも奇なりとはこのこと」


 …………。

 話を創って堂々と話してごまかそうとしている自分で言うのもなんなんだけど……沙紀の将来が不安になってきた。

 確かに、沙紀は井の中の蛙な浮世離れ世間離れしたお嬢様女子高に通ってはいるが、ここまで信じやすいとは思ってなかった。

 いや、いいんだよ。今の俺の状況からすれば信じてもらった方がいい、もらうに越したことはないんだけど……今の沙紀の反応を見て変な男や変な商法に引っかからないか心配になってきたわ。


「話の真偽は私には判断できないが、お前の本気を感じた。何に対するものなのかはわからないが……」


 あ、少しは疑ってたのね。


「ただ一つだけ、お前の姉として聞いておかなければならないことがある」


「どうしてそんな深夜に外に出ていたんだ?」


 ……確かに。

 そう思うわな。聞いてる方は。

 やばいな。そこ考えてなかった。

 あなたの夢遊病まがいの対応に追われていましたなんて今更正直にも言えないし。


「夜風にあたりたかったんです。全身で浴びることになるとは思ってなかったですけど」


「………違う。間違っているぞ、奏陽」


 違う……? 違うってなに? この状況で違うってなにさ。真実ゼロ%のこの状況で!


「そのパンツ……クマウサ仲良しイチゴほお張りパンツ、それは大切な弟にたかるどこの馬の骨ともわからないハエのような女のもので、それを返しに行っていたのではないか?」

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