辻橋女子高等学校⑤ ー 白い頬の紅潮は美しい


 ……………………。



 なんだなんだ沙紀の姉御よ。



 なんかいつになく饒舌極まっているではないか。



 いつもなら十文字前後の言葉で終わるのにさ。

 二百十三文字も話しているではないか。


 普段とは違う……少し早口でさえある。


 言葉数が多い、そして早口―――この二点から導きだされることは一つしかない。



 ……さては沙紀、緊張しているな?

 それか心が躍っているか。


 つまり、冷徹のハートをいつも胸に閉まっているあの沙紀の心が躍動しているということだ。

 こんな姉御は見たことがないぞ。


 いつも寡黙で、口数は少ない。一日ないし一年単位でテンションの起伏が小さい沙紀。俺に対して小言を言ってくるが、説教臭いというのがここ最近の印象であるが、それはそれでなんか頼りがいのある姉、もっと言えばお母さんレベルの安心感すら与えてくれるときもあるので、すごくほっとする。俺のホットスポットだ。


 普段あまりない長めの発言だけならず、その話方にかすかな抑揚も見えたな。



 自分の誕生日が来ようが(その日は俺がテーブル一杯、いや乗り切らないくらいの沙紀が好きな料理フルコース(デザート多め)に作ってやる、やるのにもかかわらず、顔色一つ変えずにもくもくと食べるあの冷ややかさ。姉弟であるからこそ普通に受け入れていて、それが普通すらあるからどうとでもないが、なかなかに冷めている)、大好きなプロレス番組を見ていようが(知らない技が出てくればそれを今すぐ習得したいがために、スッと白くてか細い腕が俺の体に迫ってきて、それに気づいた時にはもう遅く、いつの間にか俺の視界は天と地が逆になっているという展開が多々ある。そして決まって俺は痛いのに痛いと言うこともできず、息をすることだけで精一杯という状況をしばらく強いられることになる。一体、あのほっそい華奢な体のどこにそんな力があるんだか)、テレビ画面がイケメンパラダイスのときも(沙紀の好きな男のタイプがよくわからん。少なくとも顔が幼く見えて体が細いメンズに好意を寄せてはいないようだ。ということはプロレス経由で考えるとマッチョということか…………? 早く嫁に行かせたいからな。そこらへん、見繕っておくか。全然マッチョの知り合いは思い浮かばないが)、表情や言葉の色味は一切変わらない。ポーカーフェイスする必要がないのにポーカーフェイスなのである。ツンデレとはちょっと違う部類か。クーデレというやつか。デレがないじゃないかという話なら…………まあこれはまた別に機会にしよう。



 いつになく饒舌な姉御。


 やはり俺の推測は正しかったようで、心の躍動を心の中に留めておくことはできなかったようで、沙紀は今現在、絶賛モジモジ中である。



 やばいっ!

 

 こんな沙紀初めて見た!!!

 え、なに、超面白いんですけど! 超貴重なんですけど!!!


 どうしよう。俺の心も躍動MAXしちゃってるぅ!!!


 やべえ。動画とりてぇ。下手したら赤ちゃんのときの動画よりも将来貴重になるかもしれない。



「つまり姉御は立派な淑女になるには男の股間を見つめる必要があると言いたいのか?」



 沙紀は、急に俺が話すもんだから少しビクつく。



「違う。そうではない。いや、そうなのであろうが、'必要’とまではいわなくていいだろう。あくまで好奇心の一環であり、好奇心の領域を出ない―――つまりそ、そういうことだ」





 ……間違いなく動揺している。


 心躍っちゃってるよ、姉御。


 こんな沙紀見たことないからな。ちょっと日ごろの恨みを晴らさせてもらおうか。




「ん? つまりどういうことなんだ? 姉御は'必要’がないのに熱心に俺の一物に向けて視線を飛ばしていたということになるけど。好奇心の域を出ないということは好奇心アリアリということだよな。原動力は好奇心ということ。姉御は男の股間に好奇心旺盛ということなのか。ふむふむ。興味深々ということであればそりゃそのブツを持っている弟の風呂も覗くわな。理解できる。理解できるぞ、沙紀ねえさん。……というかもういいのか? 見なくて。あんな単眼鏡なんかで見てたらよく見えないだろ。いいぞ。目の前で見せても。なに、もう昔さんざん見られてんだ。すでに見られているモノを今になって見せないっていうのもおかしいってもんだ。見たければ見せてやるぞ。ん? どうする? ん? あと、どういうふうに弟のジュニアを気遣うのか、そしてどうやってそれを管理するのかも教えてくれ。具体的に、くわ~~~しくな」


 話している最中、沙紀の顔がどんどん赤くなっていくのが面白くてたまらなかった。だから俺も調子にのって挑発してしまったんだが。



 さて、沙紀はどうでるかな?

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