妃乃里と買い物37 ― 女子に目の前でこそこそ話されるほど気になるものはない
「え……あ、うん……まぁそうね……。お部屋の方が良いかもしれないし~、良くないかも知れないし~」
相変わらず……というか安定の煮え切らない口調を披露する妃乃里。
「妃乃里姉様の言う通りにしましょう」
「うん……わかった。早く見たいぃ~~~」
俺は三人にそれぞれお土産を渡した。
みんなそれを手に取り二階に上って行く。
結奈の姿はもう俺の視界にはなく、一目散に二階に駆け上がって行った。また床がかわいそうになるくらいにドシドシ踏みつけて。
俺はというと、ようやく靴を脱ぎ、家に上がった。
ふぅ……疲れた。さすがに疲れたぞ今日は。
その疲れを纏ったまま、俺はこの後夕食の準備やら何やらをしなければならないわけだ。
ほんと、これを無償でやっているんだからやってられない……やってられないぜ、まったく!!!―――なんて言って全てを投げ出して家出してもすぐさまつれもどされるんだろうな。自己管理のできなさ加減はこの上なく最低の三人だが、その代わりに個々の能力は各々方向性は違えどかなり高いレベルにあるため、遠くに逃げようと家から出たとしても遠くに行かないところで首根っこ掴まれて終わりだろう。
そんなことを考えながらリビングに入ろうとドアレバーに手をかけた時、二階でバタンッ!という音が聞こえた。
そしてドドドドドッッッと地響きが鳴り響く。
……なんて不穏な効果音なんだ。
「ちょっと! 何よこれ! なんか中にゴーヤ入ってたんだけど!!! しかもなんか「使ってください」って書いてある紙が一緒にあったし……はっ?! 何よ何よ、何なのよ一体!!!」
結奈が顔を真っ赤にして怒濤の勢いで降りてきた。真上から床を貫通して降ってきたんじゃないかと思ってしまうくらいの勢いだ。
「私のはとうもろこしだったが……これはあれか、めずらしいとうもろこしだったりするのか?」
結奈に次いで沙紀が被っていた皮をひとしきり剥いて中身むき出しのとうもろこしを持って来た。まるでバナナの皮を半分くらい向いたような状態だ。まじまじと見て普通のとうもろこしと違うところを探しているようだ。そのまなざしは、プレゼントをもらってそれなりに嬉しいと思っているような感じだ。
俺はその様子を横目で見ながら、シャツの襟元を結奈に両手でつかまれて前後に身体を振られていた。
バタンッ! ―――ドドドドドドッ。
なんだ? この家に結奈は一人しかいないはずだが。
「奏ちゃんやっぱ無理ぃぃぃ!!!」
と、妃乃里が結奈みたいに顔を真っ赤にして大根を勢いよく俺に差し出してきた。それと同時に結奈による前後揺らしは終わった……が、さっきまでの結奈の勢いが無くなり、どこか不安そうな様子だ。どうしたんだ?
「やっぱ無理って……お前が買えって言ったんだろ」
「無理なものは無理なの~。こんなの……どうやって使えっていうのよ~!><」
はいーっ?!
大根を俺に押しつけて二階に逃げるように去って行った。
何なんだよ一体……ん?
結奈と沙紀が俺に背を向けてチラチラとこちらを見ながらこそこそ話している。
今度は何なんだ……?
二人がこちらを向いた。表情がかなり硬いぞ……。怒っているようではないが。先ほどまでの結奈の赤い顔が、いつもより白いくらいにまでなっている。
二人で視線を合わせ、首を縦に振る。
なになに? 何が始まるの?
「……せーの!」
二人の腕、合計四本の腕が俺の服を脱ぎ去った。
シャツのボタンは弾き飛び、半ズボンは真下に引きづり落とされた。
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