妃乃里と買い物36 ― 不機嫌な姉にはお土産渡せばなんとかなる
「ただいま~」
午後五時頃。俺と妃乃里は無事、帰宅した。
妃乃里の呑気が家の中に響き渡る。
無音が数秒過ぎた後、カチャとドアが開く音がした。
「おかえりなさい、妃乃里姉様」
妃乃里を様付けで呼ぶ人はこの世に一人しかいない。
二番目の姉、沙紀が一階のリビングから出てきて出迎えた。
「ただいま沙紀ちゃん。楽しかったわ~。やっぱりたまには弟とデートしないとね」
沙紀は妃乃里が楽しかったのならそれでいいという感じで微笑みを向ける。
まぁおそらく沙紀のこんな屈託のない笑顔を見れるのはこの家の中だけだろうな。この家族したか見たことないだろう。それも妃乃里のそばでしか見ることができない。
「奏陽」
沙紀が俺を呼んだかと思うとドンっと肩に腕を振り下ろして言う。
「大義であった」
一気に戦国時代にタイムスリップした気分になったよ。
まあなんにせよ沙紀の視界に俺も入っていたみたいでよかった。出迎えの第一声は妃乃里だけに向けられたものだったからな。もしかしたら俺はもう死んでいて幽霊にでもなって沙紀ねぇには見えていないのかと思った。大袈裟かと思うだろうが、もう俺は疲れ果てたんだ……特に精神的に…………。
「ちょっと、奏陽! 遅いわよ。あたしのお腹が楽器みたいに鳴っちゃってるじゃない!どうしてくれんのよ! 早くどうにかしなさいよ!!!」
疲れ果てた体にムチを躊躇無く間髪いれずに打ち付けるように言ってくるのはもちろん結奈だ。階段を途中まで降りかけて身体をかがめて顔を見せる。
そんな元気あるならまだ大丈夫だろ―――なんてこと言ったら火に油なので脳内デリート。階段を全部降りてこなかったのは結奈のちょっとした空腹でもう動けないアピールなのかもしれない。
「まあまあ結奈ちゃん。そんなに怒らないの。ちゃんとお土産買ってあるから~」
「ほんと? お土産っ?!」
結奈がダダダダダッッッと木目の階段に足跡を押し付けるかのように足音を立てて降りてくる。
もうこの時点でさっきの撤回しなきゃじゃねーか。全然動けないことなかったわ。
「どれ?! どれなの?! どれがお土産なの???」
俺が持っている荷物を至近距離でジロジロと、デパートの袋の中身を見てくる。
「どれだっけな……これが結奈、これが沙紀ねぇでこれが妃乃里ねぇ……」
「ちょっと、奏ちゃん!」
「はい?」
「こんなところで……その……配るなんて……だめじゃないの!」
「へっ?」
だめじゃない? だめなのか? だってただの野菜じゃないか。ただの野菜にしては過剰包装だが。なぜ俺は怒られてるんだ?
「えー、なになになに~??? なんかいけないもの買っちゃったわけ~?」
結奈がその場でここで渡してはいけないらしいプレゼントの過剰包装を剥き出すと、妃乃里がなぜかさらに慌て始める。
「ゆ、結奈ちゃん。お部屋で、お部屋で開けましょう。ね?」
「え? そうなの? ここじゃだめなの?」
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