妃乃里と買い物34 ― 下着とシャツと俺

 力任せに真下へと下ろしきった。

 パンツスーツを下ろした……パンツスーツだけを下ろしたはずだった。



 すると、どうだろうか。

 なぜだかはわからない。わからないけれども、俺の視界は肌色一色になった。


 混じりっけのない、黒も一切無い、色素の薄い肌色が俺の視界を占領した。


 そして、頭が真っ白になった。



 下ろした先、つまりは個室の床に向けて目を下ろすと、パンツスーツの色である黒以外に、ピンク生地が目に入ってきた。

 それには、麗美店員の両脚が貫通―――いや、肌の白い両脚を通すために穴が二つあけられているようであった。



 俺は何事もなかったかのように、自分の目先にあるそれらを麗美店員の美脚に沿って上に引き上げて元の状態に戻した。

 そして、自分が脱いだ服をすばやく手に取り、上着として着てきたシャツだけ羽織る。


 財布を取り出し、文豪と名高い著名な人が描かれているあのお札を五枚取り出した。


 俺はそれを麗美店員の前に差し出し、膝をついて三つ指を立てた。


 顔は上げず、深々と、可能な限り深々と、個室の簡素な床くらい突き破ってしまうのではないかというくらいの勢いで床に頭を下げ、それを差し出した。




「元気な子供を産んでください!」




 これが、俺が麗美店員から聞かれていたこと、答えを求められていたことへの返答のつもりだった。


 それ以外に深い意味は無い。全く無い。


 今この瞬間、この言葉しか出てこなかった。

 返答と同時に、今後、未来でのご健勝とご多幸の意を含んだ次第だ。


 俺はそう言うと、急いで個室から出ようとカーテンを開けた。


 麗美店員を横目で見ながら。



 …………あんな麗美店員の顔は初めて見た。


 顔を赤くして恥ずかしくてしかたがないというような……。


 かなり動揺するが、それは今この状況をくぐり抜けてから十二分に受けるとして、すぐさま頭を切り替える。




 着替えもままならないうちにでてきたせいで家から着てきたシャツしか着ていないが、丈が少し長めなのでパンツを隠すことができた。


 さすがにこのままでは恥ずかしいので―――というかパンツが見られた場合、明らかに男性用のものではないため出たところですぐ半ズボンを穿こうと思った―――が、賢吾がもう妃乃里にあと三歩というところまで近づいていた。




 やばい! 早くなんとかしないと……でもこのままでは顔が割れてしまう。賢吾の知るところになってしまう……………………あ、そういえば妃乃里と入っていた個室に紙パンツがあったはず―――あった。


 この際四の五の言ってられない。


 俺は自分の目がでるように、試着用の紙パンツを被った。




 準備が整い現場に目を移すと、ゆゆしきことに、妃乃里が振り向いて賢吾と目が合ってしまっていた。

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