妃乃里と買い物27 ― 姉のにやつきにぞっとする俺
妃乃里は徐々に顔を上げ、メソメソ顔を披露する。
周辺の状況を見渡し、金髪や警備員の姿がないことがわかると、妃乃里の表情を一変させた。
今度はいたづらをする子供のような無垢な笑みを浮かべた。
そしてその微笑を、俺がいる試着室に向けた。
俺はその瞬間、一瞬にして身を引いた。
カーテンは閉じるまでもないくらい。だって閉じてある状態でできる隙間から覗いていたのだから。ほんの指も差し込めないくらいの隙間だ。
それにしても……あの目はダメだ。
狂気に満ちたとか、そういうことではないけど、呪われそうとかそういうことでもないんだけど……姉弟だからわかることなのかな?
あいつは今、楽しくてしょうがないんだ。
この状況を楽しみまくっている。
あいつが……妃乃里が楽しめば楽しむほど、俺は苦労に苦労を重ねる羽目になるんだよ!
「奏ちゃんさん」
ん?
俺の横に依然として上裸を保ったままの麗美店員がいた。
いつも通りの無感情な麗美店員らしい顔。妃乃里の顔に比べたらほっとするくらいの感情を抱かせる。
……そうだ。そうだった。妃乃里の騒ぎで忘れていたが、この個室の中も騒ぎになっていたのだった。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「なら……よかったです」
……なんか表情がどことなくいつもと違うような。無感情の中でも感情があるような……いつもと違うような気がする。いつもと言えるほどこの人の事よくわかってないけど。
一体、どうしたんだ?
麗美店員は俯いた。
俺の中の一体どうしたんだ感は膨らむばかりだ。
「……あの、奏ちゃんさん」
言いにくそうに言うその言葉に、俺は相槌も打てずにいた。
軽々しく返事をしてはいけないようなそんな感じ。告白される時っていうのは、こういう感じなのだろうか。
「どう……ですか?」
……ど、どう?
「どうって何がですか?」
「えっ……いや……その…………」
さらに俯く角度が深くなったぞ。
どうしたというのだ麗美店員…………あっ! わかった!
「トイレに行きたいんですか?」
なら早く服を着ないと。
「い、いえ。トイレには……行きたくないんですけど……」
じゃあどこに行きたいのだろうか。
俯きながらも俺にチラチラと上目使いで送ってくるその視線が、俺に何か気づいてほしいというような気持ちはなんとなくわかるのだが、それが何なのかはわからない。
一体この人は何がしたいのか。何を求めているのか。
こんな状況になったことがないから全然思いつかないぞ。
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