妃乃里と買い物26 ― 汗まみれのおっぱいは輝いて見える

「おい、ちょっと待てよぉ! 俺は何もやってねぇよぉ! こいつのおっぱいに何一つ触れてねぇよ!」



 いや触れてんじゃん。あんたの顔の皮膚、めちゃくちゃ触れてたじゃん!

 あんだけ人の姉の胸汚しておいてよくそんなセリフが言えるな、おい。



「こんな状況を晒しといてよくそんなことが言えるな! その真っ赤で汗まみれの顔はなんだ! 興奮していた証拠だろう!」



 警備員が興奮とかいうのか……。



「いや、興奮してたのはしてたけどよぉ、そういう興奮はしてねぇってぇ! 力んでただけだってぇ。こいつの握力半端ねぇってぇ!!!」



 どうやらなんとしてでもという思いで妃乃里のおっぱいに顔が当たることは避けようとしてあれだけの汗をかいていたようだ。

 でも妃乃里の胸に挟まれることが目的じゃなかったっけ? さすがにあの大声を聞いたらいても立ってもいられなかったか。妃乃里の手の力にもびっくりしたのだろう。どこで鍛えられたのかわからないけど、妃乃里の握力は半端じゃないからな。看護師の仕事でついたのだろうか。


 警備員二人は床でもがき蠢く金髪の正面に立って凄味を増した顔で見下ろしながら言った。

 

 ちなみに今も汗は小川のように、そして滝のように流れ続けている。

 縁もゆかりも完全な赤の他人であり傍観者、いやカーテンの隙間も隙間、その間一センチ前後の間隙からその様子を覗いている者だが、その溢れ出る汗の量を見て、水分を提供してあげたくなってくる。脱水症状になったら大変だから。



「事務室まで来てもらおうか」



 警察だけでなく、警備の応援も要請したようで、また数人の警備員が来た。

 合計六人で金髪を取り囲んでの連行となった。連れの赤い髪の男は、いつの間にかいなくなっていた。友達を見捨てるとは薄情なやつめ。


 妃乃里は胸元を両腕で抱え込むようにしながら被害者感MAXな表情でその様子を見ていた。

 妃乃里は行かなくていいのだろうか。

 でもさっき汗が小川の警備員が妃乃里のそばで何か話していたから、あとで警備室に寄ってくれとかそんな話をしていたのかもしれない。


 周辺には野次馬ができていたが、それもだんだんとはけていった。


 連行されている金髪の姿もあるところで曲がってしまい見えなくなり、あたりは一瞬にして元通りのデパートの光景に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る