妃乃里と買い物④

 妃乃里は首をかしげて怪訝な顔を向ける。


「そりゃそうよ~。だってブラしてない方がすぐ試着できるでしょ~? ぱっと着けてぱぱっとはずしてね。い~っぱい試着できるわよ」


 ん、まあ一理あるけど。あるけども、その歩く度にゆれる胸の振動具合、躍動具合がすごいから目に入れたくなくても入ってくる。強引に、そして豪快に視界に入り込んでくるのだ。谷間が丸見えだからなおさらインパクトがすごい。どんなわんぱく小僧も思わず指くわえて大人しく見てしまうほどにな。


「いや、でも家出てきたときから思ってたけど、そのノーブラのせいで胸のはしゃぎっぷりがえらいことになってるじゃねーか。飛び跳ねてどっか散歩にいっちまうんじゃねーか?」


 どこぞの有名なかえるのようなことを言って見たが、妃乃里には通じなかったようでぽかんとした表情で俺を見ていた。そして上下に揺れる自分のおっぱいを両手で包み込む。


「たとえこの子たちが誰かのところに行ったとしてもすぐに戻ってくるわよ。こんなにこの子たちを使いこな……居心地がいいところなんてここしかないもの」


 妃乃里はそう言うと、両サイドから肘で胸をぎゅっと寄せ、そのまま左腕をおっぱいの下に動かしてそのまま両胸を少し持ち上げた。妃乃里はたぷんたぷんに成長を遂げた二つの肉塊を服から少しはみ出そうなくらいに盛り上げて俺に見せびらかせる。

 弟にそんなの見せびらかしてどうすんだ。こっちは毎日服全部ひっぺがえしたあげくの一糸纏わぬ姿を毎日見てんだぞ。てか、毎日洗ってやってんだぞ! 

 ―――と言いつつも、色気をふんだんに振り撒くその姿に目を奪われている自分がいる。


「ねえねえ、奏ちゃん。さっきさ、家を出るときから思ってたって言ってたけど、それってつまり家を出るときからお姉ちゃんのおっぱいをガン見していたってことよね。一プルンも見逃すまいとしていたってことよね?」


 なんじゃその一プルンて。そんな単位初めて聞いたぞ。おっぱいが揺れるときは揺れる度に一プルンが足されていくんか。そもそもそのプルンはどういう動きをするとプルンに該当するんだ? 上下に揺れて一プルンなのだろうか。左右に揺れて一プルンなのか。だとしたら継続的に、例えば歩いている時なんかは常にぷるんぷるんしているのだから、その場合は立ち止まる時まで一プルンが継続されるのだろうか。

 いや、一プルンも逃すまいという言い方からして一プルンの継続時間は少なそうだ。おそらく見た目だろう。

 もしおっぱいがぷるんぷるんするのを見てたと俺が答えれば、妃乃里は内心喜びつつも、俺に変態だのいやらしいだの簡易な罵声を浴びせてくるのだろう。

 

「ああ。そうだ。俺は家を出てから今までトータルで三十プルンは見てる」


 ここはあえて乗ってみた。妃乃里のわけのわからない言いがかりに乗ってやった。

 すると、妃乃里は急に体を反対に向けて俺から胸を遠ざけて隠した。

 なんで顔赤くしてんだ。なんで恥ずかしがってんだよ。そしてなぜに少ししかめっ面?


「もうっ! 相手の許可なく十プルン以上見たら犯罪なんだよ~。もう、奏ちゃんのエ・ッ・チ♡」

「うそだろ? いつの間にそんな法律できたんだよ!」


 からかわれていることはもはやどうでもいい。おっぱいを直視することが多い俺にとっては大変重要な問題だ。見なきゃいけない、見ざるを得ない状況になるたびにいちいち許可を求めなければならないってことだ。その度にあざ笑うかのような、勝ち誇ったような、さらには哀れむような、俺にとっては向けられたくないような表情をされるわけだ。


「ふふふっ。でも大丈夫。そういう時はね、見てるだけじゃなくて触っちゃえば罪はなくなるから」

「……はっ? 何言ってんの?」

「おっぱいを触ればチラ見罪はなくなるって言ってるのよ。ほらっ」


 お前が決めてんのかよ、その法律! 

 てか、いや……ほらって。そんな胸張ってご提供されてもこんな公衆の面前で触るなんてできるわけないだろ……ん? なんかちらちらと余所見しているぞ。変だな。怪しい。

 妃乃里の目線をたどると、その先には警官がいた。


 ―――こいつ! 俺をはめようとしてやがるっ!!! 

 警官の前で俺に胸を触らせることで警察のお世話にならせようとしてるぞ、このアマ!

 妃乃里はいたづら好きで、たまに度が過ぎたいたずらも平気な顔してけしかけてきやがるから困る。


「おい、何期待してんのか知らねーけど、絶対触らないからな」


 触った瞬間、俺の無犯罪歴がふっとんでしまう。


「ちぇっ。つまんないの~~~。ちっ。ちっ」


 どんだけいじけてんだよ! 

 いつも優しそうにしてるけど、根本ではやっぱ俺のことを遊び道具くらいにしか思ってないんだな。まったく。


「あっ、着いた着いた~。デパート着いたよ、奏ちゃん。お姉ちゃんといっぱい買い物しようね~」


 話していたらいつの間にかデパートについていたようだ。妃乃里はさっきまでのことが無かったかのように、うきうきしながら俺の腕に抱きついてきた。

 俺たちはそのままデパートに入った。

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