妃乃里と買い物③

 日曜日。正午を少し過ぎた昼下がりに、俺と妃乃里は最寄のデパートを目指し出かけた。そこは俺が姉たちの下着を買わせてもらっている行きつけの店。俺にブラジャーの調達を任せている妃乃里はどの店がいいとか悪いとか、そういう情報はないから俺についてくるしかない。


 最近、妃乃里の体を洗っていたらまたおっぱいが大きくなっている気がしてたからちょうどよかった。妃乃里はおっぱいが大きいからいつも測っているとき、本当にこの数値でいいのかと自分でも不安だった。今日は専門の人に一回ちゃんと測ってもらおう。


 妃乃里は期待に胸を膨らませて、さらには胸を躍らせて歩いている。

 俺はというと、その陽気で楽しそうな妃乃里の様子を見て帰りの自分の様子を想像していた。きっと帰り道、この道を今と反対に歩いていくときの俺の両手は大量の荷物をぶら下げて悲鳴を上げているんだろうなと自分の身を案じてしまう。

 だってこの女、病気持ちだから。病気なんて言い出したけど、シリアス系の話ではもちろんない。うちの三姉共にシリアス要素など一ミリもない。ただ、正々堂々、正面切って大胆に仮病を発症する病気なのだ。


「ねぇねぇ奏ちゃん。今日のお姉ちゃんのファッションテーマはね、『お姉ちゃんをちゃんと姉として見なきゃいけないけど可愛すぎて綺麗すぎてとても姉として見ることなんてできないって思っちゃう奏ちゃん』よ」


 いや、ファッションテーマじゃなくて俺のテーマみたいになってますけど? 


「姉として見れないということは、モンスターか何かに見ればいいのか?」

「もう! それじゃあもはや人間じゃないじゃない。奏ちゃんのバカ!」


 ふんっと顔を逸らす妃乃里。怒りにまかせて腕を組むことで、胸の膨らみが強調される。すれ違うメンズの目線を鷲づかみだ。胸の深いところまで攻めたVネックカットでもはやおっぱいのうち三分の一は見えている。いや、この人の場合見せているのか? 面と向かって聞いたことはないけど。何より、谷間から下にファスナーが伸びており、それによって男性陣にいつそのファスナーが落ちてくるのか、そしてそれによって豊満なおっぱいがそこからこぼれ落ちてくるのかという淡い期待を掻き立てている。全体としてはワンピースになっており、下はタイトスカートになっていて丈がすごく短いから太ももも大半が露出している。フード付きでカジュアルさもあるが全体としてはフォーマルな雰囲気があるため、それほど重々しくない会合であれば着ていけそうだ。凹凸の激しいボディを存分に引き立てるタイトさではあるが、ピチピチになりすぎてはいない。オレンジという妃乃里らしい色合いがまた男たちの目を奪っていくのだろう。今日は何人が前かがみになって歩いて行くのだろうか。まあ、こんな晴れた日曜日のお出かけには妃乃里の持っている服の中では最適と言えるだろう。

 そんな大人びた服装とは違い、メイクがピンクのリップだったりチークだったりして可愛い系になっているから、まあ確かに可愛いと綺麗をうまく融合させているような感じは確かにある。


 服は大体通販か、こういう一緒に出た日に買う、もしくは「これがほっすぃ~~の」とチラシを指差されて俺が買いに行く。そしてサイズが合わなくて取替えてもらいに行くとそのサイズはもうありませんと言われてぐちぐち言われるという苦労が報われない結末を迎えるということになるわけですよ。我が姉ながらスタイルはいいのだが、逆に良すぎて胸のあたりやお尻のあたりのサイズが合わないことがあるのだ。


 そんなことはさておき、家を出て数歩歩いた時から思っていたことだが、一つだけ、ほんと一つだけ気になることがある。


「あのさ。家を出たときから気になってたんだけど」

「うんうん。お姉ちゃんに興味津々なのね。いいわよ。奏ちゃんになら何でも答えてあげる」

「いや、……うん。あのさ、妃乃里姉さ、今さ、ノーブラだよね」

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