妃乃里と買い物②
「何してんすか、お姉様」
俺が部屋に入ってきたことがわかると、どこか不敵に笑顔を浮かべて、ゆっくりと時間をかけてねっとりと見せつけるようにベッドから降りる。なんか挙動がいちいちわざとらしい。どうしていちいちそんなにエロく動けるのか分からん。ほんと、一年前のあなたに今の自分の姿を見せてやりたい。三年間黒ストッキングを肌身離さなかったあなたに! どんな顔をするのか気になってしょうがないが、とりあえずのところ最近の妃乃里のエロスの発達はめざましいものがあるということだけは言える。結奈が同じように動いてもこうはならんだろう。つまりそれは、妃乃里は潜在的に凡人をしのぐ類い稀な強いエロスを持っているのかもしれない。
スカートの裾のあたりに手を置いて下から這わせたり、おへその当たりから上に向かって手を動かし、これでもかと言うくらいに自分の肌を見せびらかしてくる。なぜおへそなのかというと、それは、おへそが出いているからだ。看護士特有のティアラみたいな形の帽子を被っていて白い服だったからてっきり看護服だと思ったのだが違うのだろうか。
「看護服の新作なの。明日からこれになるのよ~。どうかしら?」
おへそが出ている、つまり看護服がセパレートになっていて、スカートにしろ上半身の服にしろ、すごく短くなっている。ただでさえ短くなって生地が少ないのに妃乃里の洋服に厳しい豊満なバストとヒップが少ない生地をさらに伸ばしてぱっつんぱっつんで着用している。
「ねえ、奏ちゃん。お姉ちゃん……これ、明日から着てもいいかな~?」
胸のアンダー部分がキュッと締まり、今にもはち切れんばかりに二つのお山が突出している。胸を強調どころではない。これはもう主張だ。何を主張しているのかと言われると困るが、俺が言わんとしていることは見てもらえばすぐわかるだろう。こんな妃乃里のあらゆる場所のサイズを測り尽くして作ったような看護服はもはやオーダーメイドとしか考えられない。
「そうよ。オーダーメイドなの」
頭の中を読まないで欲しいと、少しばかり睨みつける。
「そうちゃんの考えてることくらいわかるわー。まずおっぱいでしょ、次におっぱいよね、そして次は……おっぱいのはずよ」
三回のおっぱい発言とともに、それぞれ異なるポーズで胸を見せびらかしてくる。三回目は谷間のあたりにあるボタンを外し、胸の谷間を俺の目と鼻の先においた。
「あたしの体はね、規格外なんだって。この胸の辺りとかお尻に合わせて制服を選ぶとブカブカで仕事がやりにくいのよ」
自分のおっぱいをむにゅむにゅともみほぐしながら言ってくる。その度に谷間から甘い香りがふわっとくる。
「ということで、それに見かねた医院長が特別にオーダーメイドでこれを作ってくれたのよ」
医院長―――。
急に話に怪しさが帯びて来たのだが。普通、医院長にもあろう人がこんな破廉恥極まりない服をチョイスするだろうか。もしかして別に作らなくてもよかったのにわざわざ作ったのではないだろうか。
「もう! 奏ちゃんたら。さっきから私に見とれて一言も発してないじゃない。まあね、言葉にださなくてもわかるけどさ。奏ちゃんが考えてることならね。だけど私は奏ちゃんと会話するためにここで待ってたのよ。感想を聞きたくて。ねえ、どう? 似合う?」
お尻を突き出し、少しかがんで腕を内側に寄せながら親指を口に当てて色っぽい表情を浴びせてくる。ちょっと古めなポージングのような気がするのは置いておこう。
「似合う似合わないで言えば、似合うと思うよ。妃乃里姉が着ているということを含めて」
「私が着てるということ? ん~、よくわからないけど褒めてくれてるのよね。ありがとう~」
急に俺を抱き寄せて締め付けてきた。端から見れば抱きしめているように見えるんだろうけど、妃乃里の抱きしめはいつも全力なのでほぼ締め付けなのだ。それに加えて看護士を始めてから仕事で鍛えられるのか、着々とそのパワーが上がってきている。胸の弾力が唯一の救いだが、これも鼻の位置が悪いと窒息してもおかしくないくらいになってしまう。
「っう゛ぁあぁ……けほけほっ……窒息するわ! 看護師なのに患者増やしてどうすんだよ!」
「あら。ごめんね」
両手を胸の前で合わせる妃乃里。
もう疲れてきたのでいっそのことリビングで休もうと部屋を出ようとする。
「ちょっと、奏ちゃん! まだ相談は終わってないのよ」
「相談?」
相談だったのか。ただの見せびらかしファッションショーかと思ってた。
「これね、ちょっといただけないところがあってね。ほら、見てここ」
妃乃里が指さしたところには、幅一センチくらいの線が見えた。
「これだとね、ブラの線がでちゃうのよ」
「……でしょうね」
ぱつんぱつんだもの。ぴったりサイズだもの。
「でしょうねって、ちょっと奏ちゃん。お姉ちゃんのブラ線を他の人に見られてもいいの? そんなに私のブラ線を安売りしていいの?」
……いやいやいや、ブラ線とか、もはやそういう次元の話じゃなくね? そんだけどエロい格好しといて、もはやどうでもいいでしょそれ。
「お姉ちゃんのブラ線を見た患者さんが、……その、元気になっちゃうかもしれないでしょ」
それこそブラどうでもいいわ! その豊満に突き出てる胸と形がはっきりわかるお尻と無駄に短すぎるタイトスカートをもっと目に安全な姿にしない限りは大抵の男の患者は元気になるわ!
……はっ! もしかしたらそれこそが医院長の策略なのかも知れない。うちの長女があまりにも使えないからビジュアル担当として患者さんの病状回復に役立てようとしているのかもしれない。最近は動物たちを患者の心の回復や癒やし担当として用いたりもしているとかも聞くし。そういう類の話なのかもしれない。だとしたら、うちの姉はいいように使われているわけなのだが……まあ本人が楽しそうだからいいか。
「元気になることはいいことじゃないの?」
そういうことであれば元気にさせることが仕事なわけだからそれでいいのだ。そうでなければこんな服装で働いていたらただの破廉恥看護師として悪名を帯びてしまうだけだ。そもそも働けるわけが無い。
「あら奏ちゃん。見ず知らずのどこの誰かもわからない男の人がお姉ちゃんに対して元気になってもいいっていうの? いつからそんな薄情になったのよ~」
あ、よく分からないけどちょっと怒り出した。おそらく、いや間違いなく本人は気づいていないのだろう。その作戦に。そしてそんなことを言ったら、さらに怒り出す――いや、もしかしたらもっとノリノリになってさらに過激になる可能性が……ある、な。
「いやよくないと思う」
「そうでしょ? そうよね。奏ちゃん、お姉ちゃんのこと大好きだもね」
とりあえずこれ以上ひどいことにならないように、機嫌取りながら早く自分の部屋にもどってもらおう。
「だからね、このブラ線をなんとかしたいのよ。ノーブラっていうわけにもいかないし ……ね?」
「ねって言われても……」
同意を求められても。俺、女じゃないし。
そもそも相談する相手が間違っている。
「じゃああれしかないんじゃない。ブラ線がない、おっぱいに被せるようにして使う前だけでつながってるブラ」
「やっぱそれ? それしかないわよね~。でも私持ってないし、着けたこともないし~。う~ん」
悩み始めた。
そして悩みつつも俺をちらちらと見ている。
すごく嫌な予感がするので後ろの扉の方を振り向こうとしたその時。
「奏ちゃん、今から一緒に買いに行かない?」
やっぱそう来たかー。。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます