☆★約束の彼方に 7


 ☆


「ありがとうございます」



「よかよ。お母さんたちにはよろしく言うといてね」


 僕は自宅まで送ってくれたスミヨおばちゃんの軽トラックが見えなくなるのをたしかめてから、自分の家の戻った。


 両親とも買い物にでも行っているのか、家にはだれもいない。暑かった制服のボタンを外し、居間でクーラーをつけて涼んだ。時間を確認しようとなにげなく携帯を取り出して手を止めた。


 僕はだれにも連絡してほしくなかったので、携帯の電源を切っておいたんだ。だけど今日の予定は、すべて消化してしまった。迷ったあとで電源を入れる。


 すると画面が立ちあがって時間が表示される。十六時二十分過ぎ。たしか透の決勝戦は十六時だったっけ。もう始まっちゃったか。


 携帯のロックを外してメニュー画面を開く。すると着信が十件も入っていた。着信を見てみると七回は理沙で、最新の三件はハカセからだ。しかもついさっき掛かってきたばかり。


 ハカセがこんなに電話するなんて珍しいな。僕はなにかあったかなとハカセの電話を折り返す。電話はすぐにつながった。


「もしもし、ハカセ」


「颯太、今どこにいる」


 電話の向こうからはきんきんと歓声が木霊していて、電話口のハカセの声がよく聞き取れない。ハカセは透の決勝戦の応援に行っているみたいだ。


「どこって、今は家だよ」


「なんでこんなときに家にいるんだ。早く来い、颯太。透の様子がおかしい」


 ハカセの声は熱と困惑を帯びていた。


「透が、どうしたって」


 僕は今つけばかりのテレビの電源を切りながら、携帯を握りしめた。

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