☆★約束の彼方に 1
☆
僕はアイロンでぱりっとなった制服を体に通しながら、この街の地図を頭に思い描いていた。僕は新しい自分を探すために、今まで好きだったものを巡る旅に出ることにしたんだ。
だけど行きたい場所は複数あり、かなり離れている。今日一日でまわり切るためには、効率的に行動しないといけない。
あそこまではバスで行って、そこからは電車に乗ろう。いや、流石にお金がもったいないから歩こうかな。そういえば今日はかなり熱いらしいと、お天気お姉さんが言っていた。やっぱり徒歩はやめよう。
そんなことを考えながらシャツの裾をズボンにおさめたとき、部屋のドアが開く音がした。チャックをあげるのと同時に、理沙が遠慮がちに入ってくる。
お気に入りの青のワンピースに白いカーディガンを着ている。おまけにうっすら化粧をしていた。
「颯太、なんで制服を着ているの」
「学校に行こうと思って」理沙の方を見ずに、僕は右の袖を引っ張る。
「日曜日に学校に行って、どうするの」
「宿題」
僕は鏡のまえに移動して、シャツの襟を直す。僕の部屋の入口でもじもじしている理沙が鏡に映っていた。
「今日は、とおるくんの決勝戦だよ」
「うん、知っているよ」
「それならなんで」
「いいんだ」
「いいんだって。そんな」
「理沙は応援に行けばいいよ。放っておいて」
理沙は唇を突き出して困惑を浮かべている。僕と理沙は共感覚を失った日から、まともに話していない。僕たちはおたがいにどう接すればいいいのか分からず、探り探りだった。
「とおるくん、颯太にも来てほしいと思うよ」
無視を決め込みながら、制服を掛けていたハンガーからベルトを取る。ズボンの穴に通す。本当は行きたかった。でも行けないんだ。あんなことを言っておきながら、どんな顔で会えばいいのか。
それが分からないんだ。
「宿題を終わらせたら行くから」
このままではずっと居座られてしまいそうだったので、適当に言い訳する。
「かならず。かならず見に来てね」
理沙は悲しそうに前髪を揺らして部屋を出ていった。
共感覚がなくなって分かったことがある。どうして今まで僕は気づかなかったのだろう。
理沙は透に、恋をしていることを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます