★病熱☆

            ★


 跳ねる水飛沫。雲一つない青空と、照りつける太陽。冷のホースの先には虹が輝く。木霊する笑い声。


  昨日は最高レベルに楽しかった。たとえ今が高熱にうなされ、昨日打ち付けた後頭部が疼き、咳が止まらずにうなされていたとしても、だ。


 焼け付くような喉の痛みと粘っこい痰がうっとうしい。体もアホみたいに熱い。鈍い頭がさらに鈍くなっている。昨日の出来事が走馬灯のようだ。


 理沙には感謝しても仕切れなかった。理沙が笑い返してくれなかったらと思うとぞっとする。理沙に思いっきり放水してしまった昨日、亜弥も颯太も手がつけられないくらいに怒っていた。


 理沙が庇ってくれなければ俺は皆に見放され、学校という社会で抹殺されていただろう。もう理沙の家に足を向けて寝られないな。


 寝返りを打つ。天罰が下ったのか、俺は初めて夏風邪なるものを引いて学校を休む羽目になった。


 『もうすこし落ちついた学校生活を送れ』との、天からのメッセージなんだろう。今度からは大人しくしようと心に決めた。


 家は静まり返っている。どうやら俺が寝ているあいだに“あいつ”も舞ねぇも仕事に行ったらしい。静寂がうるさかった。


 また寝返りを打つ。俺の頬を冷たいなにかが伝った。驚きだった。病熱がひどく心細くさせたのだろうか。無性にだれか側にいて欲しかった。だけど俺がのばしたこの右手を、つかんでくれる奴はいない。


「……これだから、体を動かせないのは嫌なんだよ」


 俺は静寂に心を振るわせながら、くすぶる熱が過ぎ去るのを、ひたすらに待ち続けた。

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