第18話 最終段階

 整形後は眉間付近に血が溜まる。それを抜くために、顔にチューブが取り付けられていた。全身麻酔をされて、意識朦朧としながら、管に血が流れていく様子をぼんやりと眺めていた。

 麻酔が解けてくると、看護師と少し会話をした。どこに住んでいるのかを聞かれたので、最初、寝ぼけて本当の住所を言いかけた。しかし、嘘の情報を伝えていることを思い出し、茨城と言った。看護師も茨城に住んでいると言っていた。なぜかは知らないが、とても嬉しそうだった。

 管とチューブを取り外し、一ヶ月ほど経つと退院した。抜糸のため、一週間後に、また来院するように言われた。

 家に帰る途中、空腹を覚えて、ファミリーレストランに立ち寄った。店員と応対すると、彼女は眉間に貼られた保護シートと絆創膏を、不思議そうに見ていた。これだけでは、整形をしたとは気がつかれないだろう。

 テーブル席に案内され、景気づけに、大きめのサーロインステーキを注文した。

 商品がやって来る間、携帯電話でネットサーフィンをしていた。ここでも、マスクは外さなかった。出来る限り、自分の存在感を薄め、他人に顔を覚えられたくなかった。

 死体遺棄事件をネットで検索しても、過去のものしかヒットしなかった。まだ、麻友の死体は見つかっていないらしい。

 想像していたよりも早く、注文した商品がやって来た。ドリンクバーを注文していたので、ドリンクディスペンサーの元へ向かった。

 そこには小さな子供を連れた母親がいた。子供は自分でドリンクをコップに注ぎたがっていた。

 母親は、砂川の姿を見ると、ギョッとした顔をして身動ぎした。

「たくちゃん、行くよ!」

 彼女は、小さな子供を連れて、自分の席に戻って行ってしまった。きっと、マスクをつけていたから、不審者のように思われたのだろう。

 ディスペンサーにコップを設置して、ジンジャーエールを注いだ。なみなみについでしまったので、口をつけて少しだけ飲んだ。

 コップを手に、もとの席に戻った。人の目を気にしながら、恐る恐るマスクを外した。管とチューブを外したばかりであるので、まだ痕が残っていた。安易にファミレスに来たことは失敗だったのかもしれない。

 なにも考えずに、黙々と食べ始める。通路を跨いで隣のテーブルに座っている二人の女がいる。馬鹿デカい声とけたたましい笑い声がやかましかった。黄色い笑い声は麻友の嘲弄を思い出させた。

 砂川はイライラして、拳でどん、とテーブルを叩いた。

 二人の女が、驚いたようにこちらを見た。砂川が睨みつけてやると、二人はなにも言わなくなってしまった。

 食べ終えると、速やかに席から離れた。二人の女はコソコソ声で話しながら、こちらを凝視していた。出来るだけ目立ちたくなかったのだが……。女の笑い声ほど、癇に障るものもない。

 通路を歩きながらマスクをつける。先程の母親と小さな子供は、ディスペンサーの前にはいなかった。

 レジで会計をしている途中、後ろにいる店員が、じっとこちらを見ていた。見返してやると、さっと視線を外した。

 なにか、俺の顔についているのだろうか。眉間に貼られた保護シートと絆創膏が、そんなにもおかしいのだろうか。

 すぐに店から出ずに、男子トイレの中に入った。水面台の鏡の前に立ち、自分の姿を眺めてみる。

 砂川ははっとした。

 目尻の辺りや眉間が腫れ上がっていた。医者の話によると、整形してしばらくは、このような症状が起こることがあるという。だから、あの連中は俺を不思議そうに眺めていたのだろう。

 明日はいよいよ、計画の最終段階だった。

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